ザ・ビーチ


 2009.6.7  楽園に隠れた狂気 【ザ・ビーチ】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
伝説のビーチを目指し、たどりついてみると、そこはまさしく夢の楽園であった…。閉じられた楽園を守るためには、それなりの秩序が必要となり、小規模集団であっても秩序ができれば、それを破ろうとするものが存在する。小規模な集団でいったん狂気が始まると、それを止めるすべはない。このビーチにいた若者たちは、一種の狂気状態だったのだろう。誰もがそのおかしさに気付きながら、楽園を手放すことができずにいる。どことなく、ミストのようにも思えた。狂気の集団の中で、楽園に終わりが近づいてくる。まっさきに思ったのは、どんなに楽園であろうとも、それなりの集団であれば、それなりの問題が起こるはずだということだ。本作ではそれに触れられていない。皆が仲良く生活している。そこに違和感を感じずにはいられなかった。

■ストーリー

バンコクを旅するリチャードは、安宿でダフィと名乗る奇妙な男から“伝説のビーチの話を耳にする。そこは美しすぎるほどに美しく、全ての日常から解放される夢の楽園──。その翌日、1枚の地図を残しつつダフィは変死。リチャードは地図のコピーを手にし“伝説のビーチを目指す。しかしそれは狂気に満ちた世界のはじまりだった……。

■感想
男と女が幻の楽園で生活する。自給自足で楽園のような生活。ただし、秘密を守るために、安易に外へでることができない。まっさきに思ったのは、絶対にだれか一人は楽園を脱出し、当たり前の日常に戻りたいと思い人がいるはずだということだ。それは結局最後まででてこないのだが、楽園といっても、すべての人に現世を忘れさせるほど強烈な楽園のようには見えなかった。そして、楽園の秩序の不自然さ。一人の指導者の下で争いもなく、天国のような生活が続く。もはやそこにはちょっとした宗教的な狂気のようなものすら感じてしまった。

楽園にたどりついたリチャードがだんだんと頭角を現してくる。リチャードの目を通して、観衆は楽園のすばらしさを感じることになる。そこで、観衆の誰もが疑問に思うことをリチャードが代弁してくれる。それは一時的に現実に戻っても、すぐにビーチへ戻りたくなるというくだりだ。現実を凌駕する、そこまですばらしい楽園なのかと、観衆は思わずにはいられない。秘密の楽園を守るため、自分たちの快楽を守るために、余計なものは排除する。異常事態のはずが、楽園に毒された人々はなんの疑問ももたない。集団心理の狂気というのが、はっきりと表れている場面だ。

ショッキングな場面が多数登場し、衝撃的な映像や楽園の狂気から目がはなせなくなる。この楽園はどうなっていくのか。外敵を排除するのか、それとも解散するのか。他の旅行者たちが訪れることを極端に嫌う人々。楽園を自分たちだけのものにするために、あらゆる手段と決まりを作る。客観的に見ると、それなりに労働もあり、プライバシーがないような生活に見える。そこがそれほど心地よいのか。現実社会へと戻りたくはならないのか。それが最後まで頭の中にこびりついてはなれなかった。楽園がバンコクということにも、バックパッカーたちがとどまる典型的な土地というのを匂わせているのだろう。

秘密の楽園には、秘密にするための犠牲がはらわれている。



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