天使に見捨てられた夜 桐野夏生


2009.10.20  このキャラに好感はもてない 【天使に見捨てられた夜】

                     
■ヒトコト感想
シリーズものと言っていいだろう。前作のキャラクターがそのまま、前作の思いを引きずって新たな事件へと対応することになる。今回の事件は失踪した人探しなのだが、またまたアングラな雰囲気を漂わせている。AV女優である一色リナが消え、彼女の過去を探りつつ行方を捜そうとするミロ。相変わらずというか、ハードボイルド的ではあるが、AVメーカーの社長と関係したりとかなり破天荒なように感じられた。前作もそうだが、この主人公が読者に好かれるのかが疑問だ。女性目線であれば好感が持てるキャラなのだろうか。物語の中でもミロ自身の評価についてはそれほど高くないように思われた。主役にどれだけ感情移入できるかで、本作に熱中できるかが変わってくるだろう。

■ストーリー

失踪したAV女優・一色リナの捜索依頼を私立探偵・村野ミロに持ち込んだのは、フェミニズム系の出版社を経営する渡辺房江。ミロの父善三と親しい多和田弁護士を通じてだった。やがて明らかにされていくリナの暗い過去。都会の闇にうごめく欲望と野望を乾いた感性で描く、女流ハードボイルドの長篇力作

■感想
人探しからスタートする本作。なにやらアングラな雰囲気が漂い。リナには虚言癖や自殺願望があったりとかなりキャラクターとしては異質である。それを探すミロにも、依頼者である渡辺がかなり強引なキャラクターであったり、AVメーカーの社長たちの邪魔にあったりと、すんなり物語は進んでいかない。それでいて、ミロの頼もしい協力者である父善三であったり多和田弁護士であったり、周りには恵まれているはずだが、ミロ自身に問題があるように思えてしょうがなかった。特にAVメーカー社長との軽率な行動で二人の信頼を無くすあたりは、自業自得だと思えて仕方がなかった。

謎が多い、異質な人物として描かれている一色リナ。結末までいくと、リナの考えはあながち間違ってはいないと思うのだが、中盤まではかなりのサイコさんだという印象しかない。あまりにぶっ飛びすぎて、探す対象として成り立たないのではないかと思えるほどだ。物語は中盤を過ぎるあたりから、きな臭い香りが強くなってくる。ミロが社長と関係を持ったあたりから、このミロというキャラクターに興味を持てなくなってはいたが、物語自体には俄然注目せざるお得なくなってくる。

ラストは思いも寄らない展開となった。一色リナの異常と思われた行動はすべて正しかったのか。真の異常者は誰なのか。かなり驚かされる部分ではある。しかし、前作もそうだが、アングラな雰囲気を漂わせ、何か普通ではないと思わせるのは良い。ただ、主役であるはずのミロに魅力を感じないのは致命的かもしれない。ミロの行動に納得できないというのは大きいのだろう。作者が女性であるように、女性読者であれば共感できるのだろうか。このシリーズがどれだけ続くかわからないが、このキャラクターには少し無理があるように感じられた。

前作よりは物語に入り込めるが、それでもハードルは高く感じた。



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