魂萌え 下 桐野夏生


2010.1.21  この雰囲気を若者は許せるか 【魂萌え 下】

                     
■ヒトコト感想
上巻からの違和感は多少和らいだとしても、やはり、この展開にどこか拒否反応を示してしまう。還暦に近い男女が付き合う、付き合わないを囁きあう。本作のメインはそこではないと分かってはいるが、どうしてもそこに意識がいってしまう。おそらく登場人物たちのような年齢になれば理解できるのだろう。ただ、今の段階では還暦前のおじさんおばさんは恋愛に対して特別な思いはなく、ささやかな趣味と孫の成長だけを楽しみにしていると思っていた。実際は違うのだろう。本作がどれほど支持されたのかわからないが、若い人が読んでどう感じるか。人生経験豊富であるはずの年代の諍いや迷いを読まされると、どこか戸惑ってしまうものだ。

■ストーリー

夫の愛人と修羅場を演じるなんて、これが自分の人生なのか。こんなにも荒々しい女が自分なのか。カプセルホテルへのプチ家出も、「あなたをもっと知りたい」と囁く男との逢瀬も、敏子の戸惑いを消しはしない。人はいくら歳を重ねても、一人で驚きと悩みに向き合うのだ。「老い方」に答えなんて、ない。やっぱり、とことん行くしかない!

■感想
上巻では違和感をもちながらも、息子と娘の冷たさからか敏子に同情する気持ちが湧いていた。夫の裏切りを知らず、世間知らずのまま過ごしてきた還暦前の主婦が、突然目の覚めるような電撃的な出来事に遭遇する。その濃密な時期がある意味敏子を大きく変えたのだろう。もしかしたら、変わる前の敏子というのは、誰もが想像する落ち着いた還暦前のおばさんなのかもしれない。本作の登場人物たちには、どれも自分がイメージする還暦の老人という姿はない。実際のところは、そうなのかもしれない。若者から見れば、六十のおじさんに性欲があるというのは、想像できないのだろう。

はっきり言えば、上下巻を読み終わっても、違和感はなくならない。自分たちの父親母親世代が、いまだに愛だ恋だと言うイメージがわかないからだ。しかし、本作はある程度支持されているらしい。ということは、本作を読んで大きく共感できる人が沢山いたということなのだろう。それはおそらく登場人物と同年代の人なのかもしれない。もしくわ、理解ある若者なのかもしれない。小さいころの三十歳というのは、とんでもなく大人に見えた。しかし、自分がなってみるとそうでもない。それと同じように、六十になったとしても、性欲もあれば、恋もするのかもしれない。

今までの控えめな敏子から自己主張する敏子へと変貌していく。その変わりようは不快ではない。逆に頼もしく感じてしまう。夫に先立たれ、子供たちが独立すると、あとはただ枯れていくだけ。そんなことは子供も望んでいないだろう。本作を登場人物たちと同年代の特に女性が読むと、大きく感化されるのは分かる気がする。年齢を引け目に感じて、遠慮する必要はない。自分のやりたいことを思いっきりやればいい。なんて、メッセージじみたことを感じるのかもしれない。

若い人にはなかなか理解しにくい作品なのだろう。



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