ストロボ 真保祐一


2010.10.3  すさまじい写真家の世界 【ストロボ】

                     
■ヒトコト感想
あいかわらず作者の知識のすさまじさに圧倒されてしまう。今回は確実に写真を趣味にしていたのではないかと思えるほど、写真に対しての強烈なウンチクがある。一般人にすれば、かなり専門的なことばかりだが、置いてけぼりな気分ではない。喜多川という男の写真家としての人生をさかのぼるように描かれた本作。細かなウンチクは写真家像を際立たせるためだけに使い、メインは喜多川の他人に対する心のわだかまりや、写真家としてのスタンスが描かれている。喜多川が出合う人々との心と心のつながりが、喜多川の写真を撮るという行動によって表面化しているようだ。写真に興味がなくとも、カメラマンの世界が垣間見え、一人の男の人生をさかのぼって読むようで楽しめるだろう。

■ストーリー

走った。ひたすらに走りつづけた。いつしか写真家としてのキャリアと名声を手にしていた。情熱あふれた時代が過ぎ去った今、喜多川は記憶のフィルムを、ゆっくり巻き戻す。愛しあった女性カメラマンを失った40代。先輩たちと腕を競っていた30代。病床の少女の撮影で成長を遂げた20代。そして、学生時代と決別したあの日。夢を追いかけた季節が、胸を焦がす思いとともに、甦る。

■感想
一人の写真家の人生をだんだんとさかのぼっていく形式の短編集。キャリアと名声を手に入れた写真家がどのような写真家人生を送ってきたのか。大御所となり、自社ビルを持ちスタッフを抱えるほど成長するには、どういった苦悩や葛藤があったのか。喜多川の人生を見ていると、写真家というのは非常に儚く厳しい世界に生きているのだなぁと感じた。才能があればすぐにでものし上がれる世界。若いころは怖いもの知らずであっても、年齢を重ねるにつれ、新たに登場する若い才能に驚き恐怖する。サラリーマンにはない、フリーランスならではの駆け引きなども盛り込まれている。

作者の知識の深さには相変わらず驚かされる。本作は写真家の物語だが、作者自身がかなり写真の知識がなければ、本作のようにはならないだろう。写真ひとつ撮るにしても、角度や光源など、一般人ではほとんど意識しない部分も、わかりやすく描いている。そのため、まったく写真に対する知識がない人が読んだとしても楽しめる。難しい専門用語一辺倒ではなく、初心者にもわかりやすく、噛み砕いた説明が行き届いている。読み終わると、写真に対する知識がそれなりにあるような気分になるから不思議だ。

喜多川の人生と深い関わりのあった人々との関係が描かれており、その節目では写真家としてどうすべきかという葛藤がある。写真家として成功することの難しさ。さらには同僚からのやっかみや、足の引っ張り合いなどもある。プロのカメラマンの世界は厳しいというのはわかっていたつもりだが、想像以上に壮絶な世界だということがわかった。自分の人生や家庭よりも、良い写真を撮ることだけに心血を注ぐ。その気持ちが無くなった時は、ただ過去の実績にすがって細々と食いつないでいくしかない。とんでもない世界だ。

プロカメラマンの世界が垣間見えた気がした。



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