好き好き大好き超愛してる 舞城王太郎


2010.12.6  それぞれの愛のかたち 【好き好き大好き超愛してる】

                     
■ヒトコト感想
それぞれ愛の形はいろいろとある。本作を単純な恋愛小説として読むことはできない。作中から伝わってくるメッセージは恋愛というよりも、愛そのもののような気がした。お互いの気持ちのすれ違いや葛藤や危機を乗り越え恋愛を成就させるのではなく、ただ、死にそうになったパートナーへの愛を貫く話だ。タイトルに惹かれて女子高生が読んだとしたら、内容の理解しにくさに読むのを諦めてしまうかもしれない。パートナーに死が迫った、もしくは死へ向かうしかない状態で男はどういう形で愛を表現するのか。男の心の中で叫ばれる言葉は、たまにズシリと重くのしかかってくる。独特な比喩と、ふざけたような語り口だが、強いメッセージ性はある。愛とは常に幸福とイコールではないのだ。

■ストーリー

愛は祈りだ。僕は祈る。僕の好きな人たちに皆そろって幸せになってほしい。それぞれの願いを叶えてほしい。温かい場所で、あるいは涼しい場所で、とにかく心地よい場所で、それぞれの好きな人たちに囲まれて楽しく暮らしてほしい。最大の幸福が空から皆に降り注ぐといい。

■感想
彼女に死が迫り、僕はただ見守るしかない。恋愛というより愛の力を試されているような物語だ。目に見えない愛というものを、作者独特の比喩で表現した本作。中にはSFまであり、様々な愛の形が描かれている。これが純粋な愛だとは思わないが、1つの形であることは間違いない。恋人が死ぬとわかったとき、1年に1回死んだ彼女から手紙がくるが、それが百年続く。これが愛なのかと思う部分もあるが、大きな枠でいうと愛なのかもしれない。ベタベタな愛の形かと思いきや、ファンタジー溢れる展開や、身の毛もよだつようなおぞましさあり、強烈すぎる。

本作はちまたに溢れる恋愛小説ではない。もし、女子高生や女子大生がタイトルに惹かれて本作を読んだとしたら、間違いなく驚き、もしかしたら嫌悪感をもつかもしれない。死が迫った彼女を、主人公がどういった思いで見つめるのか。パターン的には恋人の死ということで、恋空なんかと同じかもしれない。しかし、中身はかなり違う。作者独自の比喩が今までになく強烈に愛の形を示している。だいたい、物語自体がどこからその発想がでてくるかわからない特殊なものだ。特にSFはろっ骨をつなぎ合わせて神と戦うなんて最初は意味不明すぎて何がなんだかわからなかった。

本作には、表題作以外にもう一つ短編がある。愛とは無関係だが、これまた強烈だ。一般人が考え付かないような荒唐無稽なストーリー。作者の頭の中はどうなっているのか、めちゃくちゃなストーリーを考えろといわれても、こうまでしっかりと筋道をたてためちゃくちゃな話は考えることができない。表題作のSFもそれに近いものがある。感覚的に人とどこか違うのだろう。作者が語る愛の形にしても、既存の考え方をなぞっているようで、特殊なインパクトがある。明るく楽しい愛ではない。愛を貫くにはそれなりに苦労しなければならない。愛は辛く苦しいものなのだ。

愛とは、なんて語るつもりはないが、考えさせられる何かがある。



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