心臓を貫かれて 上 村上春樹


2009.1.6  トラウマのクロニクル 【心臓を貫かれて 上】

                     
■ヒトコト感想
人はなぜ殺人を犯すのか。罪も無い人々を殺したゲイリー・ギルモアの心の奥底にあるもの、その原因を探ろうと弟であるマイケル・ギルモアが書いた本作。内容的には祖父の代にまでさかのぼり、ゲイリーがそのような性格になった原因を突き止めようとしている。悪霊的なものに取り付かれたことが原因なのか、それとも家族に何か問題があったのか。本作では原因を探るために、家族の負の部分や、引越し先の霊的なものにまで焦点を当てている。客観的に読んでみると、何かしら問題はあるにしても、特別このギルモア家が異常なのではないように感じた。ただ、どこにでもいるグレた息子がしでかした大きな過ち。その原因を探るのはなんだかこじつけのように感じてしまった。もしかしたら下巻にはより霊的なものが強くなるのだろうか。

■ストーリー

僕の兄は罪もない人々を殺した。何が兄の中に殺人の胎児を生みつけていったのか?―四人兄弟の末弟が一家の歴史に分け入り、衝撃的な「トラウマのクロニクル」を語り明かす。暗い秘密、砕かれた希望、歴史の闇から立ち現われる家族の悪霊…殺人はまず、精神の殺人からはじまった。

■感想
家族の中で一人の殺人者がでた。その時家族はどう思うのか。ゲイリーを生み出したこのギルモア家のルーツを探るノンフィクション物語なのだが、随分昔にまでさかのぼっている。ゲイリーがこうなってしまったのは何か因縁めいたものがあるのではないかということが本作の根底にはある。それも、何か霊的なものが大きな役割をはたしているのではないかということを強く主張している。このゲイリー・ギルモアという人物がどのように有名で、どんなことをしたのかまったくわかっていない。何かとてつもないことをしたのだろうか?本作に出てくるちょっとした犯罪行為だけでは到底そう思えない。

家族との関わりがゲイリーに大きな影響を与えているのではないかと容易に想像できる。悪霊的なものよりも、何か家族、特に両親に問題があるのではないかとすら思えてくる。しかし、マイケルに言わせると家族間の問題すら悪霊が一役かっているように考えているようだ。そんな中でも、両親は親としての役目をはたしているとも思えた。特別裕福ではないが、貧乏でもない。あちこち放浪をしていたが、それは今で言うところの転校が多い子供という程度なのだろう。確かに環境に恵まれないというのは不幸なことだが、それだけが全てだとは思えない。

マイケルはゲイリーと同じ血が自分の中に流れていることを恐怖している。そして、自分もゲイリーと同じような行動をとるのではないかと恐れている。そういった恐怖心が本作を書かせたのだろう。そんな恐怖のフィルターを通して見た家族とゲイリーについて書かれている本作は怪物を生み出した家庭として、驚くほど強烈なインパクトを与えるようなものではなかった。だとすると、悪霊的なものが、ゲイリーを殺人者へといざなったのだろうか。ゲイリーが壊れていくさまを克明に描いていくはずの下巻。それを弟としてどのような描き方をしたのか非常に興味がある。

ノンフィクションとして読むと、家族の大切さをヒシヒシと感じてしまう作品だ。

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