心臓を貫かれて 下 村上春樹


2009.1.11  一家の暗黒の歴史 【心臓を貫かれて 下】

                     
■ヒトコト感想
上巻から引き続きギルモア一家の不幸の生い立ちを描いている本作。どれだけ憎しみあっても家族という絆は強かったのだろう。どんなに兄や母親にひどい扱いを受けようとも、最終的には家族の大切さをせつせつと語る作者。当時、全米中を騒がし、さらには日本にまで報道されるほどの出来事の関係者として、どう考えているのか。作者の考え方はある程度時間がたったときにはっきりとわかる。ゲイリー・ギルモアという怪物だけが報道されてはいるが、家族にも大きな要因はあったのだろう。一家の不幸な出来事を読まされるのだが、その結果もつ感想としては、家族の絆は強いということだった。

■ストーリー

76年夏、運命の日が訪れた。殺人。判決は死刑。兄は銃殺刑を求めた。その恐怖の世界を抜け出すための手だては、たったひとつしか残されていなかったのだ。刑執行を数日後にひかえた兄との対決、母の死、長兄の失踪…そして最後の秘密が暴かれる。家族のゴーストと向きあいつつ、「クロニクル」は救済と新たな絆を求めて完結する。

■感想
当時、どれほど話題になったのかまったくわからない。しかし、アメリカの死刑騒ぎが日本にまで報道されるとなると、かなりセンセーショナルな出来事だったのだろう。その関係者として事件当時のつらい出来事や関係者として周りからうとまれる存在となる過程など、現在にでも通じるような部分がある。これほど自分の人生に大きな影響を与えた家族であったが、作者はなんだかんだいいながらも、家族のことを愛していると締めている。ここが一番衝撃を受けた。本作の結末間近に、ある大きな秘密が明かされるのだが、最終的にはその秘密よりも、家族の絆というものに驚かされた。

忌まわしき血の元凶はなんだったのか、それは結局明らかにはならなかった。上巻から予測した流れでは、ゲイリーがどれほど残虐なことをやったのかという興味があったが、蓋を開けてみれば、それほど強烈なものではなかった。確かに残虐非道なことに変わりはないが、それでも事件として後世に残るほどのインパクトはない。ゲイリーの死刑に対する思いというのが話題として先行した結果、本作のような出来事が起きたのだろう。

ゲイレン、ゲイリー、そして母親。作者の家族は次々と死んでいく。そして、その誰とも作者はうまくいかなかった。にもかかわらず、作者は家族を愛していると語り、死者を冒涜するような行為や発言には怒りを表現している。生前の行動とはかけ離れたもののように思えるのだが、それが家族の絆というものなのだろう。自分がどれだけ家族のために不利益をこうむろうが、それらから逃れるため、一人で逃げ出したりもしたが、結局家族は大切だということなのだろう。

ギルモア一家の暗黒の歴史を読みながら、家族の絆の強さを感じさせられる作品だ。



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