ロミオとロミオは永遠に 下 恩田陸


2010.8.28  ぶっ飛んだ設定でつっ走る 【ロミオとロミオは永遠に 下】

                     
■ヒトコト感想
作中の登場人物たちが大東京学園に疑問を感じているように、読者も最初から違和感を持っているだろう。SFというには無茶な展開と、ゲーム的要素の強いストーリー。安易なSF漫画によくありそうなパターンだと思った。それは下巻になってより強くなり、大東京オリンピックの競技も手の込んだアトラクションだというのはわかるが、その存在意義はまったく不明だ。このぶっ飛んだ世界にどれだけなじむことができるか。脱走を成功させた方法というのも、それほど驚くことではない。なにやら深い秘密があるような流れになってはいるが、特別な秘密はない。最後のオチと、地雷地帯を通りぬけるという緊迫感はインパクトがあるのは確かだ。

■ストーリー

「大東京学園」の存在意義に疑問を感じはじめたアキラは、何者かの計略により「新宿」クラスへと降格になってしまう。そこでは、リーダーのシマバラはじめ13人の生徒たちが、学園からの脱走計画に命を燃やしていた。一方、肉親の死に絶望し、20世紀への思慕を募らせるシゲル。それぞれの想いが交錯するなか、学園最大のイベント「大東京オリンピック」の開催日にして、“脱走の特異日”である10月10日が迫っていた―。

■感想
上巻では、アキラの兄のみ脱走に成功したという流れのまま、どうやって脱走したのかが大きな疑問だった。それは下巻でしっかりと示されてはいるが、特別な驚きはない。近未来の日本がとんでもないことになり、80年代90年代のサブカルチャーを印象的にあつかいながら、面白さを表現したようだが…、微妙だった。SFとしても、特別魅力的な設定ではないので、結末は「新宿」クラスが脱走できるかということにかかっている。ただ、それすらも特別興味深い部分ではなかった。

大東京学園に住みつく謎の女や、過去に脱走に失敗した生徒たち。ヴァーチャルな世界を織り交ぜながら、不思議さを演出している。ミステリアスな部分は最後の最後まで引っ張ったわりにはたいしたことはなかった。脱走するために通らなければならない地雷地帯というのは確かにインパクトがあり、そこを通り抜ける部分が一番盛り上がるかもしれない。あっさりと地雷にやられていく新宿クラスの面々。最後に壮大なカタルシスを感じるかというと、そうでもない。

ラストのオチは確かに意外だった。アキラの兄が脱走してからその消息を絶った理由にもうなずける。ただ、脱走するとなぜそうなるのかというのが、まったく説明されていない。とってつけたように、最後はとんでもないことになる。サブカルチャーをしつこく登場させ、昔の知識を覚える必要があるという伏線はすべてラストのためにあったのだろう。シゲルの姉のエピソードにしても、大きな秘密があるように思わせておきながら、サラリと終わる。ラストは強引に終わらせたというところだろうか。

かなり特殊なSFだ。



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