ネクロポリス 上 恩田陸


2010.11.15  死者と再会できる奇妙な場所 【ネクロポリス 上】

                     
■ヒトコト感想
現実とリンクしているようで、していない不思議な世界。「ヒガン」という日本の彼岸をベースとした儀式が存在し、そこで「お客さん」として死んだ人々と出会うことができる。いくつかの制約があり、ミステリーとしての謎を深めている。故人と再会できる「アナザー・ヒル」で行われる不思議な儀式。特に精霊が犯人を捜しだすという、真実の口をイメージさせるような儀式は、強烈なインパクトがある。「ヒガン」で起きた事件の真相は?、そして、ジュンとそっくりなケイト叔父さんや、いわくありげな人物たち。ミステリーを構築する情報が大量にあり、何と何が繋がっていくのかまったく想像がつかない。どのような方向へ進んでいくのかもわからない。一連の儀式に対してある程度の答えは示されると思うが、科学的な答えは期待していない。

■ストーリー

懐かしい故人と再会できる場所「アナザー・ヒル」。ジュンは文化人類学の研究のために来たが、多くの人々の目的は死者から「血塗れジャック」事件の犯人を聞きだすことだった。ところがジュンの目の前に鳥居に吊るされた死体が現れる。これは何かの警告か。ジュンは犯人捜しに巻き込まれていく―。

■感想
日本の彼岸をベースとした「ヒガン」という風習。故人をしのぶという意味ではなく、実際に故人と再会できるという不思議な空間で繰り広げられる様々な事件。ラインマンという怪しげな人物や、その他、「アナザー・ヒル」を仕切る三人の男たち。警察組織をまったく受けつけないという排他的な空間で発生した事件はどのような結末を迎えるのか。読者はジュンと同じように、ありえない出来事を不思議な思いで受け入れながら、物語は進んでいく。犯人を捜すために行われる「ガッチ」という儀式の、有無を言わさぬ迫力。どんな嘘でも見抜き、四肢を引き裂くなんてのは、たとえ自分が無実だとしても、そうとうな緊張を強いられるだろう。

「アナザー・ヒル」という不思議な世界では、覆ることのない決まった法則がある。「お客さん」は絶対に嘘をつかないという法則があることで、事件に何か大きな影響を与えそうな気がした。先入観なく真っ白な気持ちで疑問を口にするジュンは、まるで読者の代弁をしているようだ。鳥居につるされた死体と、死体の境界線をジャッジするラインマン。このラインマンの存在が不思議な雰囲気をいっそう際立たせ、さらには、特殊な力を連想させている。事件としてラインマンがどのように関わってくるのか、それによって面白さも大きく変わってくるような気がした。

事件としてはミステリー的な不思議さはない。ただ、特殊な環境で、誰が事件を起こし、その動機は何なのかという疑問は残る。さらには「ガッチ」をどのようにして抜け出すことができたのか。「お客さん」から提供される情報と、それを活用する人々。死者と再会するとなると、殺された人や、恨みを持った人との再会もありうるということだ。本作ではそのあたりをにおわせながら、何かそのことが事件に関係してくるのではと思わせている。この「ヒガン」を含めた不思議な世界をどのように感じ、理解できるか。物語に入り込むことができれば、かなり楽しめるだろう。

現実世界の理論とはかけ離れた世界。気になる要素は盛りだくさんだ。

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