ネクロポリス 下 恩田陸


2010.11.24  不思議な世界の答えは何なのか 【ネクロポリス 下】

                     
■ヒトコト感想
「V.ファー」や「アナザーヒル」など独特な造語が下巻になると自然となじんでくる。死者との交流にしても、そうなっているからそうなのだと変に納得してしまう。どこか遠い外国で同じような儀式や場所が存在していると言われて、そのまま信じてしまうほど、絶妙な不思議さがある。死者との交流を怪しく感じながらも、目の前で繰り広げられる出来事を信じないわけにはいかない主人公。読者はその世界の中を不思議な感覚のまま読み進めるしかない。特殊な事件や、なぞのラインマンの存在などが不思議さを強調しているが、終わってみると「そうだったのか」という少し気の抜けた感想を持ってしまった。真実しか話さない「お客さん」にしても、そのオチでくるとは思わなかった。非常に練りこまれたファンタジーだ。

■ストーリー

英国と日本の文化が融合した世界「V.ファー」の「アナザーヒル」では、死者と交流する「ヒガン」と呼ばれる行事が毎年行われている。「V.ファー」で連続殺人事件が発生した年、聖地である「アナザーヒル」でも事件が起きる。犯人探しが進むなか、不思議な風習に彩られた「アナザーヒル」が変質し始める――。

■感想
ミステリー的な驚きはない。さも特殊な事件のように語られ、人が煙のように消え去った原因など、不思議な出来事に対しての答えは用意されている。死者と交流できるという不思議な空間の中ではどういったトリックであっても、それほど驚くことはない。すでに死者が当たり前のようにあらわれる世界では、どんな驚きだろうと色あせてしまう。あとは、このアナザーヒルの正体とはいったい何なのか、それをしっかりと説明されるかどうかが、一番の興味を惹かれる部分だ。極度に排他的な世界の中で、謎が謎のまま終わるのではなく、しっかりと答えを示す。広げた風呂敷の大きさからすると、かなり困難なことのように思えた。

本作の中盤からは今まで隠されていた真実が洪水のように押し寄せてくる。ケント叔父さんが消えた理由。ラインマンの姉の存在。壜に詰められた左右色の違う眼球。密室の中で大量の血が残っていた理由。それらにはしっかりとした理由があるのだが、その理由にどれだけ納得できるのか。元が不思議な世界のため、どのような理由も成り立つのは当然だろう。論理的な答えより、どれだけこの世界にぴったりと合った世界観を盛り上げるものか、それが重要だ。三本足の鳥が登場するなど、不思議さはピークに達している。

アナザーヒルに滞在する人々の謎に対する推理や、日本の古い習慣を模倣したような「ハンドレッドテールズ」など、興味深い部分は多数ある。特殊なファンタジーであり、ミステリーであり、日本人の古き良き風習を廃れさせないための作品のようにも感じられた。登場人物たちが、摩訶不思議な出来事や危険が目の前に迫ったとしても、どこか落ち着いて冷静な対処をしているので、読者は起こった出来事と比較すると、それほど緊迫感を持つことはない。このことが物語全体を、内容の凄惨さに比べるとほのぼのとしたものに感じさせている。

ベースが不思議な世界なので、謎のトリックも当然不思議な答えだ。



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