夏の名残りの薔薇 恩田陸


2010.9.17  ひどく実験的なミステリー 【夏の名残の薔薇】

                     
■ヒトコト感想
山奥のホテルに集まる人々。そこで起こる奇妙な事件。ミステリーの定番ともいえる状況の中、真実か妄想かわからない出来事が起こる。章ごとに違った人物の目線で語られる本作。決まりごととして章の最後に何かしらの事件が起こる。それが次の章にうつると、まるですべてが無かったかのように物語は進んでいく。最初はこの方式に戸惑った。ついさっき読んだのはいったい何だったのだろうかという思いが強く残った。読んでいくうちに仕組みがわかり、すべては夢か幻か、それとも実際に起きた事件なのかいっさいわからない。ラストに種明かし的なものがあるが、答えにはなっていない。ミステリーの王道的雰囲気の中で、ひどく実験的な物語の進め方をしている。なかなか万人受けするものではないだろう。

■ストーリー

沢渡三姉妹が山奥のクラシック・ホテルで毎年秋に開催する、豪華なパーティ。参加者は、姉妹の甥の嫁で美貌の桜子や、次女の娘で女優の瑞穂など、華やかだが何かと噂のある人物ばかり。不穏な雰囲気のなか、関係者の変死事件が起きる。これは真実なのか、それとも幻か?

■感想
ホテルに集まる親類と関係者たち。お互いの利害関係や、不倫や確執などそれぞれの人物の本心がわからないまま物語は進んでいく。このパターンはミステリーとしてはすでにおなじみであり、事件が起こりホテル内に潜んでいる犯人を探し出すというのが定番だ。本作もそのたぐいかと思いきや、大きく裏切られた。章ごとに物語を語る人物の目線が変わり、その人物が深く関係するであろう物語となる。必然的に、人物周辺の人間関係や、謎が明らかとなり、物語に深みがましてくる。ただ、章の終わりには事件が起こり、さぁこれから始まるかというところで、別人の視点で物語が続いていく。

章が変わるとついさっき起きた事件がまったくなかったことにされている。数ページ前に犠牲になった人物が、次の章では普通に会話をしている。最初は頭の中が混乱したが、読み進めていくうちに仕組みがだんだんとわかってきた。あいまに挿入されるシナリオの意味は、最後までまったくわからなかったが、視点が変わるたびに新たな妄想が繰り広げられるようで目新しさはあった。ただ、物語としての統一性はないかもしれない。ミステリーの王道的舞台で、少し変わった試みをする。作者のチャレンジ精神はすばらしいと思うが、なかなか入り込むのは難しい。

ラストは今までの物語が真実なのか妄想なのかわからないまま進んでいく。答えらしい答えはだされていないが、すべては妄想だったのだろうと結論づけるしかない。最後の章で、突然ふって湧いたように新たな事件が勃発し、その答えも示されるが、どうにも唐突な印象は拭い去れない。結局物語として何が言いたかったのかよくわからず、妄想に対するトリックはしっかりと明かされているが、特別驚くようなことでもない。キャラクターや人間関係、そして三姉妹が語る不思議な話は面白いのだが、全体として考えるとよくわからないまま終わったといっていいだろう。

普通にはない形のミステリーだ。



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