長い長い殺人 宮部みゆき


2009.7.5  財布目線が新しい 【長い長い殺人】

                     
■ヒトコト感想
それぞれの財布目線で物語りは進んでいく。最初はこの方式になかなか慣れることができず苦労した。しかし、一度慣れてしまえば、財布という特殊な状況をうまく使うことで、物語をミステリアスに進めることができる。それにしても、財布目線だけでここまでしっかりと事件を作り、それを解決させる手腕には驚いた。どこかで無理やり感がでてくるかと思いきや、最後までしっかりと財布目線で語られている。事件自体は犯人と思わしき人物が、事件を起こすことがどれだけ不可能かという部分がそれほど強調されなかったので、摩訶不思議感はない。しかし、最後に犯人が明らかとなると、それには多少驚いてしまう。複雑な事件なので、しっかりと読み込まなければ混乱してしまうかもしれない。財布目線ということで、ちょっと奇妙な雰囲気だがこれも新鮮でよかった。

■ストーリー

金は天下のまわりもの。財布の中で現金は、きれいな金も汚ない金も、みな同じ顔をして収まっている。しかし、財布の気持ちになれば、話は別だ。刑事の財布、強請屋の財布、死者の財布から犯人の財布まで、10個の財布が物語る持ち主の行動、現金の動きが、意表をついた重大事件をあぶりだす!

■感想
ひとつの事件の関係者が、その後起こるさまざまな事件と係わり合いがあるかもしれない。確証はないが、状況的にそう考えられる。しかし、決め手がない。そんな雰囲気で進む本作。ちょっと感じたのは、東野圭吾原作の白夜行に近いように思えた。犯人と思わしき人物が、頭がよく、人心掌握に長けている。そして、その相棒である女は美しく、頭がよい。こんな二人が犯人なのではないかと、財布目線で語っている。数々の状況証拠から導き出されるのは、犯人は決まりきっているという、当たり前の証拠ばかり。なんだかこのまますんなり決まるのもおかしいという思いは、読んでいくうちに強くなってきた。

物語が佳境に入ると、財布目線の語り口にも慣れ、だんだんと事件の真相が明らかになってくる。単純な保険金目当ての事件なのか、それとも他の目的があるのか。事件の真相、そのものズバリを突くような話は出てこない。まったく無関係の出来事から、思わぬところで事件と繋がりがでてくる。重要な情報をもった人物を登場させるために、ちょっとした物語も財布目線で語られている。だんだんと積み上げられていった情報から、犯人の目的と、隠された真実が暴かれていく。ジワジワと染み入るように出てくる真実には圧倒されるが、長大な物語なので、細かなエピソードは忘れてしまう危険性がある。

真犯人はさすがに驚くが、少しルール違反な気がした。この手を使えば、どんな摩訶不思議な事件でも起こすことができるだろう。真犯人がセオリーどおり、最初からちょくちょく登場していた人物だったら、まだ納得できたが、そうではないので、ちょっとそのあたりにもずるさを感じた。そうは言っても、財布目線で最後まで壊れることなく、しっかりと物語を完結させたのはすばらしいことなのだろう。今まで、財布目線で、持ち主の物語を語るなんて作品があっただろうか。わざわざ財布にしたことで、見るべきことが見えず、読者をやきもきさせる効果はある。

この方式がベストかどうかわからないが、新しいのは確かだ。



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