モダンタイムス 伊坂幸太郎


2009.8.12  勇気は…、ない 【モダンタイムス】

                     
■ヒトコト感想
魔王の続編というのは、後半になるまでまったくわからなかった。モーニングに連載されていた作品というだけあって、短いスパンで山場が多数登場してくる。とてつもなく大きな力が働き、人間はそれに流されるまま歯車となるしかない。前半までは強烈な引きの強さで、読み進める手を止めることができなかった。サイトで検索するだけで、どこからともなく、赤の他人が自分に危害を加えにやってくる。不可解な事件であればあるほど、恐ろしく感じてしまう。物語自体は軽快な語り口と、知的な会話で深刻さをそれほど感じさせないが、かなり陰鬱な物語であることは間違いない。作者独特の問いかけが頭にこびりつき離れない。魔王との繋がりが明らかになると、本作の面白さを改めて感じてしまう。

■ストーリー

「勇気はあるか?」 29歳の会社員となった私の前で、見知らぬ男がそう言ってきた。「実家に」と言いかけたが、言葉を止めた…。

■感想
正統な魔王の続編だ。魔王のときに感じた消化不良感は一気に解消されたとまではいかないが、どうにか納得できた。魔王のときに感じた、全てを裏で操っている大きな黒幕の影は、結局本作でそれなりの答えをだしている。魔王のような不思議な感覚はないが、より現実的で、恐ろしさは際立っている。ある言葉を検索しただけで、自分の素性がすべて明らかとなり、自分に危害を加えにやってくる。まったく理不尽なことだが、それを受け入れている登場人物たちも恐ろしかった。登場人物たちの独特な思考原理と、会話。身近にいるようなタイプではないが、妙に親近感がわいてくるのは何故なのだろうか。

前半の奇妙な引きの強さ。なぞが複雑に絡み合い、全ての黒幕や謎の事件、謎の「安藤商会」という言葉には引き付けられてしまう。後半にはそれらの謎が全て明らかとなり、魔王とのつながりもはっきりとしてくる。連載中にいろいろと右往左往したのだろう。少し物語の方針がぶれている箇所もあるが、単発的に興味を引かせる力はすごいと思う。ラストはご都合主義的にちょっとドタバタして終わる。結局、主人公の妻が格闘技の達人であったり、不倫相手は結局なんだったのか、など中途半端な部分も残したまま終わっている。

近未来の話である本作。しかし、現在のネット社会でもありえないことではないから、より恐ろしく感じてしまうのだろう。ある言葉を検索しただけで、警察からマークされるなんてことは、まことしやかに噂としてはよく聞く話だ。よくわからない世界で、何でもできてしまうだけに、変にリアルで恐ろしく感じてしまうのだろう。ミステリーというくくりでは語れない本作。相変わらず魅力的で特徴のあるキャラクターは顕在なのだが、前にも増して血が通っていないというか、登場人物に無機質な印象をもってしまった。知的で、変なところで諦めが良かったりする。頭が沸騰するような激怒シーンを連想できない登場人物だからこそ、本作を冷静な気分で読ませてくれるのだろう。

魔王からの続きとしては正統な進め方だと思うが、心のどこかで本当の黒幕的なものの登場を期待してしまった。



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