みぞれ 重松清


2008.11.25  どの年代でも対象になりうる 【みぞれ】

                     
■ヒトコト感想
何かを社会に訴えるでもなく、教訓的な意味合いを含んでいるわけでもない。ただ作者が見たり聞いたり、経験した出来事を描いている短編集。家族のあり方とはいったいどうあるべきかなどの説教じみたものではなく、出来事をただ、リアルに語っているだけだ。そのために全てが丸くおさまるエンディングがあるわけでもなく、強烈な悲劇に見舞われるわけでもない。このぼんやりとした雰囲気で、何の解決策も思いつかないのが現実なのだろう。家族の問題に安易に答えがでるはずがない。多面的に見ればなおさらだ。本作には、はっきりと答えが出されていない短編が多数ある。そのため、あっさりと終わるような印象があるが、妙に心に残ったりもする。

■ストーリー

思春期の悩みを抱える十代。社会に出てはじめての挫折を味わう二十代。仕事や家族の悩みも複雑になってくる三十代。そして、生きる苦みを味わう四十代――。人生折々の機微を描いた短編小説集。

■感想
作者の経験?それとも誰か知り合いに聞いた話?どこでもありそうな物語が、作品として成立するには、そこに隠された問題を見事に浮き彫りにしているからだろう。拍子抜けするほどあっさり終わる短編もあれば、他の作品と比べ、多少長くなると途端に濃密な雰囲気が現れてくる作品もある。本作を読むと、どの年代であってもどこかで感情移入できるような気がした。自分の場合は特に、自分の若いころ、そして今現在、さらに未来。くだらない悩みもあれば、深刻な悩みもある。それは誰もが通る道であり、悩むことなのだろう。はっきりとした答えが出されていないので、そのときになったら自分で答えを見つけるしかない。

セッカチな夫やリストラ対象となった40代の営業課長。自分が今後直面するかもしれない問題が、赤裸々に語られている。そして、とても他人事ではないと身につまされる思いもした。どちらも、当人たちとは別に外部の要因が大きいのだが、家族のことや仕事のこと、そして、自分自身のこと。なんだか、自分が同じ立場になったらどうすればいいのか、まったくわからず途方にくれそうだが、本作を読んだ時のぼんやりと力が抜けるような思いを大事にとっておこうと思う。今、この時期に自分が読んだということが、あとあと財産になりそうだ。

幼馴染の自殺未遂や自分の父親の晩年など、ともすれば暗くなりがちな話であっても、読後感はすっきりとしている。深刻な事態であることに変わりはないはずなのに、未来へ続く道が真っ暗闇だとは思えない。登場人物たちは悩みに悩み尽くすが、そのことに周りは気づいており、何か決して物事が悪い方向へは進まないような、そんな雰囲気すらある。悩むことは間違いではない。そして、悲観的になることもない。ただ、当事者は楽観的になるべきではない。なんだか、変な心構えのようなものを教えられたような気がした。

読めばかならず、何かしら感情移入する部分があるだろう。



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