密告 真保祐一


2010.8.29  密告=汚いやつ 【密告】

                     
■ヒトコト感想
密告の濡れ衣を払拭しようとする男の執念。自らの汚名を晴らすために、人を疑い、事故が誰かに仕組まれたと思う男。あまりにその執念が強烈なため、本来ならしっかりと現実感のある設定のはずが、うそ臭く感じてしまった。密告したのは一体誰か。そこから始まるのは、気が遠くなるほどわずかな手がかりから、様々な人へ繋がっていき、最後にはある結論にたどりつく。作者取材力と知識のすごさ、そして強烈なこだわりというのを感じることはできるが、情熱を注ぐ場所が間違っているような気がした。現実は本作のように細かく地道な作業なのかもしれないが、物語としての爽快感がない。人の粗を探すように過去の不正を暴く。ある意味、人の執念の恐ろしさを感じる作品だ。

■ストーリー

川崎中央署生活安全総務係の萱野は、ある日、上司の矢木沢に面罵された。競技射撃で五輪出場権を懸けて争った選手時代の確執から、矢木沢の接待疑惑を密告したと思われたのだ。自らの汚名を晴らすため、萱野は真の密告者を捜す!

■感想
人の足を引っ張り合うということを、日常に盛り込むため、競技射撃での五輪代表を争うという部分が組み込まれたのだろう。密告というと正義というイメージがあるが、本作では密告=汚い奴というイメージだ。誰かを蹴落とすために密告する。そんなレッテルを貼られたら辛いだろう。自分に注がれた汚名を払拭するために、男は執念の調査にのりだす。作中で誰かが語っていたが、出世に興味がない男にとって密告という汚名をそこまで真剣に晴らす必要があるのだろうかと思った。たとえそこに女が絡んでいたとしても。

汚名を晴らすために男がとった行動が信じられない。警官という職業だからこその行動なのだろうか。自分が犯罪者になりかねない危険を冒しながら捜査を続ける。周りの迷惑や、制止を振り切り突っ走る男。正義を貫くというのならわかるが、密告の汚名を晴らすためという、なんだか理由としては弱いものなので、ちょっと違和感を覚えた。男があらゆる手段を使って調査するその様は、作者の膨大な知識と綿密な取材によって成り立っているのだと思うが…。力の入れどころが違うのではないかと思った。

最終的に誰が密告したかということが明らかになるが、ミステリー的な驚きはない。男と女の痴情の縺れといってしまえばそれまでだが、五輪代表を投げうってまで男に協力しようとした女など、男の暴走を冗長するような人物ばかりなのも気になった。男が何年も前の秘密を暴き出そうとする。仕組まれた事故から始まり、その関係者と妹までもしつこく調査するその姿は、異常以外の何物でもない。結局、利権が絡むというあたり、あっさりとした終わりも影響しているかもしれない。

徹底した調査をする理由がそれなりになければ、人の粗を探しているようにしか見えない。



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