目薬αで殺菌します 森博嗣


2008.12.10  シリーズの要素のひとつ? 【目薬αで殺菌します】

                     
■ヒトコト感想
もはや作品単体としての評価は何の意味ももたない。今まで、このシリーズの作品は何度となくそう言ってきたが今回も変わらない。一連の事件のなぞを解き明かそうとしながらも、その裏でうごめいている大きな力を探ろうとする。犀川と萌絵がでてくることで、シリーズにつながりがあるということを認識させるのだが、今シリーズのキャラクターは相変わらず何のためにいるのかわからない。特に今回は微妙に恋愛風味をかもし出しつつも、何もなしで終わってしまう。事件的な面白さやミステリーとしての驚きはなく、シリーズのひとつの要素として存在しているのだけの作品だろう。何か伏線的なものがあちこちにちりばめられているようだが、あまりにシリーズのスパンが長くてまったく覚えていない。後でまとめ読みすべきだろうか。

■ストーリー

神戸で劇物の入った目薬が発見された。目薬の名には「α」の文字が。その頃、那古野では加部谷恵美が変死体を発見する。死体が握り締めていたのは、やはり目薬「α」!探偵・赤柳初朗は調査を始めるが、事件の背後には、またも謎の組織の影が…?「φ」から続く一連の事件との繋がりは!?進化するGシリーズ、第7弾。

■感想
真賀田四季をめぐる一連の出来事。考えてみれば、作者の作品は最初から真賀田四季に振り回されている。全てを通して、この圧倒的な天才なくして作品は成り立たないのだろう。常人には想像できない頭脳を持った女。それだけに、どんな突拍子もない出来事や事件であっても、裏で真賀田四季が糸を引いているとわかれば、それだけで納得してしまう。もはやこれは、作品として整合性を保つためではなく、単純に困ったときの真賀田四季という感じなのだろうか。

本作でも申し訳程度に事件は登場する。別にこれといって特別謎に満ちているわけでもなければ、奇妙でもない。目薬という小道具がでてくるが、それは真賀田四季の思想を大まかに説明するための、ちょっとした要素のひとつでしかない。結局本作は、真賀田四季が目指す何かがいったいどんなものか、そして、それが世界にどのような影響を及ぼしつつあるのか。はっきりとした応えはまたまたでることはない。何か特別な組織や団体があるわけでもなく、ネット上でつながっているだけ。下手したら誰も信用できるものがない。なんていうぼんやりとした恐怖は感じてしまった。

本作に登場するちょっとした事件が、あとでどのような影響があるのかは未知数だ。長期的なスパンで人類をある方向へ導こうとするのだろうか。しかし、これだけ大風呂敷を広げたからには、このシリーズの最後には何か答えらしきものを提示するつもりなのだろうか。どんな答えであっても、”なぁんだ”という落胆は絶対にあるだろう。何をやっているのか、何をやろうとしているのか、その断片だけを小出しにしながら、天才の得体の知れない行動は、想像している時点がピークなのだろう。答えが出た瞬間、全ては終わってしまう。

シリーズの結末がどのようになるにせよ、最後まで読むつもりだ。



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