魔術はささやく 宮部みゆき


2009.3.18  序盤からの強烈な引きの強さ 【魔術はささやく】

                     
■ヒトコト感想
いったい何が起こっているのか。なんだかわからない不思議な状況からスタートする本作。まず、最初にこの状況にやられてしまう。意味ありげな一言を残して事故にあう女や、自殺していく関係者たち。そこには一体どんな繋がりや理由があるのか。ミステリーとして、まずこの冒頭にはまり込んでしまった。先が気になって気になってしょうがなくなり、なかなか読み進める手を止めることができなかった。何か不思議な力がはたらいているのか、だとしたら、それはどういった理由で、誰が…。作者が魔法的なものをオチに使うことはありえないと思っているので、いったいどんな結末がまっているのか、そればかりを楽しみに読むことができた。期待感の大きさに比べると、やや物足りなさはあったが、序盤だけで十分楽しめる作品だ。

■ストーリー

それぞれは社会面のありふれた記事だった。一人めはマンションの屋上から飛び降りた。二人めは地下鉄に飛び込んだ。そして三人めはタクシーの前に。何人たりとも相互の関連など想像し得べくもなく仕組まれた三つの死。さらに魔の手は四人めに伸びていた…。だが、逮捕されたタクシー運転手の甥、守は知らず知らず事件の真相に迫っていたのだった。

■感想
一人、二人、三人と謎の死を遂げる。明確な殺人ではなく、自殺にちかい事件。それが何か仕組まれたものなのか。この冒頭の始まり方からしてやられてしまった。裏で大きな力が動いているのか、それとも何か超常現象的なものなのか。作者の作品の流れからすると、特殊な力をオチにもっていくことはない。常に理論立ててしっかりと物語を形作っている。それがわかっているだけに、この冒頭からいったいどのような事件が起こり、そして解決されるのか。前半部分では情報が小出しにされ、次第に物語の全容が明らかになってくると、しっかりとはまり込んでしまった。

ミステリアスな流れと、しっかりとした事件の背景。中盤になっても、まだ犯人の正体はまったく想像がつかなかった。物語の中では、事件の鍵となる事象をにおわすようなイベントが起こったり、様々な登場人物たちの中には、いかにも怪しそうな人物も登場する。魔術的な何かがあるのか、それとも超能力か。終盤になるにしたがって少しづつオチが明らかになってくると、少しテンションが落ちてしまった。まぁ、割とありきたりな展開なのだという思いと、それでも漫画的な不自然さがまったくないということ。物語を壊しかねないオチをうまく処理している。

序盤から中盤にかけての引きの強さに比べると、ラストの流れは少しトーンダウンしたような感じだろうか。ただ、序盤からの勢いで一気に読んでしまえば、それも気にならないのかもしれない。作者の作品は序盤がすばらしい。まるで映画を見ているように、次にどうなるのか、頭の中で想像しながらも、ドキドキワクワクしながら楽しむことができた。ラストにあっと驚くような展開にはならないので、それがおしいところかもしれない。終わりよければすべてよしというように、ラストがすばらしいと読後感の印象も随分違ってくる。そういったところは本作にはない部分かもしれない。

序盤から中盤にかけてのドキドキ感とラストのすっきりとした終わり方。好きな人は好きな終わり方だろう。



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