2009.9.18 今までになく特殊な主人公 【クロスファイア 上】
■ヒトコト感想
特殊能力を持った青木淳子。このキャラクターが今までにないタイプだ。淳子が悪と感じるものを容赦なく始末する。その過程で邪魔になったり、少しでも悪に関わっていると容赦のない制裁がまっている。主人公が女でこの手の作品であれば、どこか人情深く、最後まで手を下せないタイプかと思っていた。イメージと真逆をいくキャラクターに戸惑いを感じてしまった。特に中盤の、喫茶店に乗り込むあたりからが圧倒的な血も涙もない冷徹女の様相をていしている。ある意味、爽快感はあるかもしれない。しかし、ここまで容赦ないタイプであると、倫理的なものとか、道徳的な考えで、主人公に対して嫌悪感をいだく危険性さえでてくる。特殊なキャラが、今後どのように人間味を持った行動をとるのか、それが一番気になる部分だ。
■ストーリー
四人の若者が廃工場に瀕死の男を運び込んできた。その男を“始末”するために。目撃した青木淳子は、力―念力放火能力を放ち、三人の若者を炎上させる。しかし、残る一人の若者は逃走。淳子は、息絶えた男に誓う。「必ず、仇はとってあげるからね」一方、現場を訪れた石津ちか子刑事は、不可解な焼殺の手口から、ある事件を思い出していた!
■感想
特殊な力で、火のないところに、突然激しく炎を上げることができる淳子。その力を使い社会的な悪を駆逐しようとする。まず、このキャラクターの特殊性というか、自分の恨みつらみではなく、一般的な悪をターゲットとしていることだ。普通ならば、悪をぶちのめすことに対して、真っ当な理由というか要因がある。それを描かないと、主人公といえどもただ殺人を楽しむ者になってしまうからだ。制裁に対しての理由付け。これは非常に重要なはずなのに、本作では一切語られることはない。あるのは、自分は銃に込められた弾だという淳子の思いのみだ。この特殊な理由を読んでどのように感じるのか。今までにないパターンなのでかなりインパクトはあるが、違和感もある。
淳子の悪を倒すという徹底ぶりが、違和感に拍車をかけている。目的の人物だけでなく、それに関わる人々も容赦なく始末する。物語として読むと、何もそこまでしなくとも、という思いもある。これが、誰が見ても冷酷非道で仕事をきっちりとこなすような殺し屋風であれば、なんら問題はない。淳子というキャラクターがそこまでやることに違和感があるのだ。なんでもない、どこにでもいるOLが突然、特殊な力を使って悪を倒す。淳子の内面描写を読んでも、そんなことをするようには感じられない。淳子の思いと、行動のギャップが激しいのもその一因かもしれない。
悪を殲滅するうちに、謎の人物も登場してくる。事態は複雑となり、淳子の今後の行動がどうなるのか気になるばかりだ。下巻では、もしかしたらここまでの淳子に対する違和感を払拭するような何かがあるのかもしれない。そこまで悪を倒すことにこだわる理由は何なのか。自分の力を放出することが目的のようにも描かれている上巻。しかし、それだけの理由で神のように罪人を裁いてよいことにはならない。何かトラウマのようなものがあるのだろうか。非常にショッキングで風変わりなキャラクターだが、このキャラクターに共感をもつことができるのだろうか。それが気になるところだ。
下巻でどれだけ印象がかわるか楽しみだ。
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