2009.9.29 強引に決着をつけた結末 【クロスファイア 下】
■ヒトコト感想
上巻では青木淳子の強烈なキャラクターばかりが印象にのこっていた。本作では、キャラクターのインパクトよりも周りでうごめく謎の組織ガーディアンや、同じ能力を持った女の子とのかかわりがメインとなっている。複雑に絡み合う関係者たち。係わり合いがないように思わせておきながら、実は裏では繋がっていたり。淳子の強烈な能力はどのようになっていくのか。そして、どうやってこの物語を完結させるのか。中盤になっても、まだまだ終わりは見えてこない。もしかしたら、続編があるのではないかと思えるほど、長大な作品のように思えた。しかし、物語はある意味しっかりとした決着をつけている。この結末しか終わらせる方法はないのだろう。淳子というキャラクターのもっていき所に苦労したような終わり方だ。
■ストーリー
“あたしは装填された銃だ。持てる力を行使し、無軌道に殺人を続ける若者たちを処刑する”青木淳子の「戦闘」は続く。さらに、謎の組織“ガーディアン”が、淳子との接触を図り……。連続焼殺事件の背後に“念力放火能力者(パイロキネシス)”の存在を感じた石津ちか子・牧原両刑事は、過去の事件関係者を洗い、ついに淳子の存在に気付くのだった。正義とは何か!? 衝撃の結末!
■感想
装填された銃のごとく、その強烈な能力をふりまわす淳子。悪を倒すためにわずかな犠牲もいとわない、圧倒的な神のような振る舞いをする淳子。ここまで容赦の無いキャラクターは今まで読んだことがない。さらには淳子の雰囲気からすると、キャラクター性とまったくあっていない。そんな淳子が下巻ではどのように変わっていくのか、そして、淳子がこうなってしまった原因はなにか…。それらすべては結局明らかになることはなかった。淳子が改心したという描写もなく、何かが大きく変わったというのもない。あるのは謎の組織であるガーディアンが淳子に触手を伸ばしはじめ、ある結末に至ったというだけだ。
淳子をめぐる世界の中で、無関係と思われた人物が実は裏では繋がっていたり、謎の能力を持った人物が登場したり。物語としてはとても本作だけですべてを終わらせるのは不可能と思わせるほど、濃密な世界観を描こうとしていた。続けようと思えば、続編としていくらでもネタは尽きなかっただろう。しかし、そのためには淳子に対して何かしらの解決策を用意しなければならない。淳子の心に巣くう何かを開放する必要がある。本作はそれらを放棄し、淳子がそこまで悪に容赦のないものになった原因というのは一切語られていない。ガーディアンの存在意義が微かにそれを匂わせているだけだ。
パイロキネシスという無敵の能力をもつ淳子。淳子に対して何かしらの後始末をつけなければ本作は終われないと思っていた。そこで登場したガーディアンと木戸浩一。幸せをつかみかけた淳子がこのよううな結末に至ったのは、もしかしたら作者なりの考えなのかもしれない。このまま淳子を今までと同じキャラクターとして動かすわけにはいかない。かといって、大きな変化を起こさせる理由がない。となると答えはおのずとでてくるのだろう。ある意味、淳子の自業自得といえるかもしれない。この結末はベストではないが、ベターなのだろう。「淳子は悪を探す旅にでました」的な終わり方ではなかったのが救いかもしれない。
下巻の流れから、一気に結末までいくとは思わなかった。
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