2010.12.30 生きている人間が一番恐ろしい 【黒い家】
■ヒトコト感想
本作を原作とした映画は見たが、かなり強烈だった。映像のインパクトと、なによりその雰囲気が恐ろしすぎた。本作は視覚的な怖さより、想像力によって怖さが倍増している。なんてことない普通の人がとんでもないことをやってしまう。映画ではあきらかに異質な雰囲気がでていたが、本作ではごく普通の一般人としか思えない。そんな人物が裏ではとんでもないことをやっている。人間的な心を一切もたない者には何をやってもまったく効果はないのだろう。修羅場を潜り抜けてきたヤクザや、見るからに異常な人間より、表向きは普通だが、心の奥底に異常な闇を抱えている者ほど怖いものはない。心理分析から異常な心理を導きだし、一般的な事件へと繋げていく。身近に起こりそうな事件だけに、恐ろしすぎる。
■ストーリー
若槻慎二は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。ある日、顧客の家に呼び出され、期せずして子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。ほどなく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度から他殺を確信していた若槻は、独自調査に乗り出す。信じられない悪夢が待ち受けていることも知らずに…。
■感想
保険金を目当てにした事件というのは、報道などでよく見かける。その異常さが、本作を読むことで改めて認識させられた。普通の突発的な事件とは違い、計画的に保険金を騙し取ろうとする裏にはどんな心理が隠れているのか。対外的にはごく普通の夫婦に見えていたとしても、そこには隠された闇がある。どんな幽霊や獣より、生きている人間が一番恐ろしい。ただの保険会社の社員で普通に生活しているはずの若槻に突然ふりかかってくる恐怖というのは、理不尽でありながら、これがありえる現実だと思わせる力が本作にはある。
恐怖の源は何かと考えた時、一番に思ったのは神出鬼没感と、相対的な恐ろしさだ。本作では圧倒的迫力で不正な保険金請求をする被保険者たちに保険解約をせまる三善という男が登場する。ヤクザ崩れで人を屈服させることを生業としている男が、どういった経緯かわからないが、あっさりと舞台から退場してしまう。そうなってくると、読者は恐ろしい三善よりもさらに恐ろしい者の存在に圧倒されてしまう。ただのサラリーマンである若槻に対応できるはずがない。生きている人間の恐怖というか、恐怖だけ何倍も倍増した形で押し寄せてくる。
合間には平和な日常が戻ったと思わせる場面がいくつかある。そんな中であっても、突然ふりかかる悪意の恐ろしさは尋常ではない。日常の中に埋没している危険を浮き彫りにするように、誰もが本作のような危険な目に合うかもしれないと思わせるパワーがある。本作を読むことで、本来はありえないのかもしれないが、身近にどんな異常者がいるかわからないと思ってしまう。通勤電車の隣に座っている人がどんな人なのか。外見は普通であっても、その心の奥底まではのぞき見ることはできない。
何より生きている人間が一番恐ろしい。
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