2008.9.26 マニアックなアナログ的作品 【カクレカラクリ】
■ヒトコト感想
なつかしのS&Mシリーズのように大学生が活躍する本作。昔からの森博嗣ファンならば堪らない流れなのかもしれない。犀川のように突出して頭のキレル人物の代わりに、ちょっとマニアックでオタクな学生や高校教師が登場し、萌絵のようなお嬢様的な人物も登場する。殺人事件の謎を解くミステリーではないが、隠れカラクリの謎を解くという部分では、十分に興味を引かれる内容だった。ハイテク技術を駆使したり、科学的な根拠を示すのではなく、単純に木でできた歯車が動き、カラクリを動作させる。とんでもなくアナログだが、それが良い。ありきたりなミステリーよりは本作の方が断然良い。多少の不自然さはあるにしても、壮大で夢があるカラクリは読んでいてとても楽しかった。
■ストーリー
廃墟マニアの郡司と栗城は、同じ大学に通う真知花梨に招かれ、彼女の故郷・鈴鳴村を訪れた。その村には奇妙な伝説があった――。明治時代に作られた絡繰りが、村のどこかに隠されており、120年後の今年、動き出すというのだ!
遥かなる時を経て、絡繰りは甦るのか!? 興味を持った郡司たちは、鈴鳴村を探索するのだが……。
■感想
百二十年間ひたすら動き続けるカラクリ。どんな動力で、どのような仕組みで動くのか。登場人物たちが推理する過程を読むだけで、同じように自分の中で推理してしまった。コンピュータを使い、専門家しか知らないような薬品を使って、とっぴょうしもないトリックのミステリーを表現するよりは、単純だが奥が深い本作のカラクリの方が魅力的だ。ちょっとした自然の力を利用し、木の歯車が動き続け、はるか彼方にある、小さなカラクリ人形を動かす。木の温もりを感じさせる本作は、今までになく新鮮に感じた。
隠れカラクリが作られた経緯や、その後の謎などは正直どうでもよかった。興味があるのはカラクリがどのような原理で動いていたかということだ。もしかしたら、一人の天才が作ったとんでもないものとして、仕組みは暴かれず、濁されて終わるのかと思いきや、最後にはしっかりと説明してくれている。ただ、ある程度予想として事前に出てきたものの組み合わせということが、それほど驚きはなかったのだが、それでも一つの動力を使ってカラクリを動かすということに、なんだかわからないが男のロマンのようなものを感じてしまった。
登場キャラクターたちがいつもの森博嗣風味を存分に出しているので、ファンにはたまらないだろう。小憎らしいというか、小難しいというか、実際にそんな会話をされると腹が立つような会話を続ける登場人物たち。よく考えるととても不自然なのだが、本作の中ではすべてが許せてしまう。人の生き死にや、憎悪が入り混じったミステリーではなく、皆どこかのどかで、平和で、そして朴訥とした人柄が魅力でもあり、不自然さの原因の一つなのだろうが、それらすべてが森博嗣作品らしさと言っていいだろう。
無理矢理ミステリーを作り上げていたように感じられた最近の作品と比べると断然楽しめた。
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