陰日向に咲く 劇団ひとり


2009.1.24  話題作だけにハードルは高い 【陰日向に咲く】

                     
■ヒトコト感想
映画版を見た感想では”きっと原作は面白いのだろう”というような感想を持っていた。確かに、映画版と原作は異なっている。いくつか面白そうなエピソードをかいつまんだのが映画版なのだろう。正直言うと映画版のキャラクターはよく覚えているが、ストーリーはほとんど覚えていない。おかげで原作はそのまま純粋に楽しめたのだが、予想以上に読みやすく薄かった。内容も薄かったがページ数が薄かった。サラリと軽く読めるのは悪くない。個性的なキャラクターと、随所にちりばめられたユーモアも悪くない。ただ、複数のエピソードの思わぬつながりを楽しむにしては弱いような気がした。驚きも特になく、”あっ、そうなんだ”という感想で終わってしまう。それぞれはそれなりに面白いのだが、結局何が言いたかったのかよくわからない。そんな感じだろうか。

■ストーリー

ホームレスを夢見る会社員。売れないアイドルを一途に応援する青年。合コンで知り合った男に遊ばれる女子大生。老婆に詐欺を働く借金まみれのギャンブラー。場末の舞台に立つお笑いコンビ。彼らの陽のあたらない人生に、時にひとすじの光が差す―。不器用に生きる人々をユーモア溢れる筆致で描く。

■感想
それぞれの短編に微妙な繋がりがあり、それに気づいたときにちょっとうれしくなる。そんな感覚だろうか。陽のあたらない人生を過ごす人々に焦点を当て、物語として描いていく。あまりにスラスラ読めてしまうために、面白さよりもストーリー展開の速さに驚いてしまう。個々の作品はそれなりに面白く、笑える場面もある。ただ、全体を通して面白いかというと…。結局作品同士の繋がりにどれだけ感銘を受けるかということだろう。確かに微妙なつながりをこっそり忍ばせているのはすばらしいが、似たような作品はいくつか読んだことがあるのであまり驚きはなかった。

それぞれの短編の中で一番印象に残っているのはギャンブラーの話だろう。映画版でもメインに据えられていた話だが、映画版の方がもう一ひねりあった。原作は驚くほどシンプルで、感動を誘おうとしている。先に映画版を見てしまっただけに、どうしてもキャラクターは映画版の俳優を思い浮かべてしまう。そうすると、どうも違和感があった。面白さの中に感動をしのばせるのは難しいのだろう。ある程度ありきたりな流れの中で、感動させるにはもっと大きな出来事が起こらなければ駄目なような気がした。

話題になった作品だけに、気にはなっていた。各所で絶賛されていただけに読む前のハードルはすこぶる高かった。それだけに、あまりにサラリと読めてしまうその内容と、ページ数には少し別の意味で驚かされた。読書に慣れていないライトな読書家には良いのだろう。日ごろから弁当箱のような分厚い作品を読み慣れている自分にとっては、いくら短編といえども物足りないという思いはぬぐえなかった。恐らく読む人によってはこのライトさが良いという人もいるのだろう。これは好みの問題だからしょうがない。

話題になった作品というだけで厳しい目で見てしまうのは悪い癖かもしれない。



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