非正規レジスタンスー池袋ウェストゲートパーク8 石田衣良


2010.12.25  派遣社員から這い上がる難しさ 【非正規レジスタンス-池袋ウェストゲートパーク8】

                     
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■ヒトコト感想

多少マンネリ化しつつはあるが、時事問題を取り上げ社会の矛盾点を鋭く突く視点はさすがだ。本作ではだんとつで表題作である「非正規レジスタンス」がすばらしい。前々からわかっていたことだが、派遣の実状というのをさらに悲惨で取り返しのつかないことのように描いている。恐らくはこれが現実なのだろう。メタボラでも同じような感覚を覚えたが、一度踏み外したレールには二度と戻ることができないという恐怖がある。格差社会と一言で片付けたり、すべては自己責任だと切り捨てるのは簡単だろう。作者自身もこの現実をどうにか変えようと作中で四苦八苦しているが、結局ほとんど解決らしい解決には至っていないように思われた。

■ストーリー

派遣会社からの日雇い仕事で食いつなぐフリーターのサトシ。悪徳人材派遣会社に立ち向かう決意をした彼らユニオンメンバーが次々襲撃される。「今のぼくの生活は、ぼくの責任」と言い切る彼をマコトもGボーイズも放っておけず、格差社会に巣食う悪と闘うことに。

■感想
大企業のお坊ちゃまがゴミ拾いをしたり、付き合った女の性癖を利用し脅迫する男であったり、まぁわりとありきたりなテーマの作品が多いかもしれない。すでに定番となりつつあるマコトの事件の解決方法。トラブルが発生するとGボーイズや、サルを含めたヤクザ関係に頼る。今回もそのパターンを大きく外れることはない。マンネリ化しつつあるが、安心して読むことができる。その時最新の情報から、ある程度の事件と解決が繰り返される。大きなインパクトはないが、それなりに楽しむことができる。

本作の中ではまちがいなく表題作が最もインパクトがでかい。派遣社員の実状を描いているのだが、かなり極端な例に感じられた。しかし、極端と感じることがすでに何もわかっていないのかもしれない。もしかしたら本作の例は極端でもなんでもなく、当たり前に起こっていることなのかもしれない。派遣社員が透明人間というのはかなり的を射ていると思った。普段生活をしているとどこにいるのかまったくわからないが、ネットカフェなどにいくと、途端にその存在に気がつくのかもしれない。仕事上もプライベートでも存在感のない存在。それはとんでもなく辛いことだろう。

作中ではバリアを持たない人の苦しみというのが語られている。家族や家や学歴や友達というバリアがなければ、誰もがネットカフェ難民という泥沼にはまり込む可能性があるのだろう。自分にはどんなバリアがあるおかげで普通に生活ができているのかと、必ず考えさせられるだろう。ただ生存するために仕事をする。ネットカフェ難民からアパートを借りて正社員として這い上がることはほとんど不可能と作中で語られている。それはその通りなのかもしれない。もし、バリアもすべて失ったとしたら、少しでも足を踏み外すと、とたんに難民となる可能性は誰にでもある。

非正規レジスタンスは自分の立場と状況をかなり考えさせられる作品だ。



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