いとしのヒナゴン 上 重松清


2009.11.27  ヒナゴンが田舎町を救う? 【いとしのヒナゴン 上】

                     
■ヒトコト感想
ヒナゴンという謎の類人猿をきっかけとして、田舎町に波乱が巻き起こる。ヒナゴンというのはあくまで象徴的なものにすぎず、本作で語られているのは田舎町すべてに共通する問題点だ。跡取りがいない家が増え、嫁不足となり、若者の働く場所がない。さらには市町村合併の波に飲み込まれ、町自体の存続が危ぶまれている。比奈町の町長となったイッちゃんが一人孤軍奮闘しているが、冷静に考えると、ただのわがままで、町長として町のことを考えるということができていない。しかし、本作はそんな現実的なことは抜きにして、町を守り、一発逆転を目指す方向性が苦しいながらも、示されている。上巻での暴走から、下巻がどのような結末になるのか。決して、成功しない起死回生のヒナゴンはどうなるのか、決して良いイメージはわいてこなかった。

■ストーリー

謎の類人猿ヒナゴンが目撃されてから三十数年。昭和の記憶と思われていた怪物騒動がふたたび甦った!伝説の悪ガキ「イナゴのイッちゃん」を町長にいただく比奈町は、さっそく類人猿課を再設置したが、目撃情報をよせる地元の老人たちはヒナゴンより孫代わりの話し相手が欲しいらしく…。

■感想
田舎の現実をはっきりと示している本作。自分の田舎も恐らくは比奈町と同じような状況であり、何の波風も立てることなく合併したように思われる。本作はどう考えても合併すべき状況にありながらも、昔のガキ大将であるイッちゃんが、比奈町を守ろうと孤軍奮闘する物語である。登場人物のほとんど多くは、ヒナゴンの存在を疑い、合併に賛成の流れとなっている。それを知りながらも、イッちゃんというガキ大将に引っ張られながらヒナゴンを探し、町を合併から守ろうとする。すべてが合理的で論理的ではすまない、感情の部分が大きいのだろう。

上巻では徹底して無茶なことをやる人々を描いている。合併に反対する根拠は希薄で、ヒナゴンを探すという方針も曖昧。町の大多数が反対する類人猿課を発足させ、窮地に陥ることになった町長。ここまで不利な要素が集まると、あとはリコールにひた走るしかないのでないかと思えてしまう。もしかしたら、ここまで不利な状況を作りながらも下巻では、ヒナゴンが登場し、比奈町が活性化され、合併せずに済むという安易な展開には絶対にならないはずだ。最後に厳しい現実を突きつけつつ、かすかな希望を持たせるような終わり方なのだろうか。

比奈町の状況は、どの町でも共通の問題が多々あるのだろう。ヒナゴンフィーバーを冷めた目で眺めるもの。熱を持って探すもの。若者の話し相手がほしいだけの老人。嫁不足に就職難。一度東京にでてしまうとなかなか田舎に戻ろうという気が起きないのは確かだ。ある意味本作のように、どこか東京でうまくいかない結果、間をつなぐという意味で類人猿課へと期間限定で勤務したりもする。上巻での無茶な数々の行動を下巻で正当化するのか、それとも夢破れたという流れになるのか。結末がものすごく楽しみで仕方がない。

本作のような作品に現実世界の問題の解を求めてはいけないのだろう。しかし、どうしてもすばらしい答えがでることを期待してしまう。

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