いとしのヒナゴン 下 重松清


2009.12.1  感動を引き起こす町長選 【いとしのヒナゴン 下】

                     
■ヒトコト感想
上巻の流れからいくと、合併に対してかたくなに反対していたイッちゃんが、どのように変化していくか、そこが気になった。本作では、あっさりと長いものには巻かれろ的な流れになっている。しかし、それが不自然ではなく、なるべくしてそうなったと思わせる熱さがある。比奈町のことを考え、町長選に担ぎ出された若者のことを思い、真に町のことを考え決断する。ただの身勝手でわからずやな町長というイメージから一転、頼りがいがあり、熱くそして男気のあるすばらしい町長のように思えてしまった。冷静に考えれば上巻の町長が不自然すぎるので、下巻の流れになるのは自然だ。ただ、その決断にいたるまでの熱い男の魂というのは、得体の知れない感動を引き起こしている。

■ストーリー

ヒナゴン探しが難航する比奈町に市町村合併の波が押し寄せた。地方の将来を見据えた備北市の片山市長と、義理と人情で世間をわたる比奈町長イッちゃんはいわば水と油。合併問題が迫ってくるうちに、予想外の事態が巻き起こる。ヒナゴンは実在するか?またUターン組の心にきざす想いとは。感動が胸にひろがる“ふるさと”の物語。

■感想
ヒナゴン騒動から始まった本作。合併を避けられない田舎町の行く末を案じ、比奈町の町長であるイッちゃんが破天荒な行動をする。上巻ではイッちゃんの行動にまったく共感できなかった。それが下巻になると、常識的な決断をするというのもあるが、ハチャメチャな行動や、仲間を思っての行動が熱く心に響くようになってきた。利害関係なく、町のことを考えての行動。仲間を思っての決断。何をするのが比奈町にとって一番よいのか、そればかり考えている。未来ある若者の成長も大きな心で受け止めている。上巻の印象とは180度変わってしまった。

ヒナゴンの結末はある程度予想通りだ。あれほどこだわっていたイッちゃんでさえ、合併後の類人猿課の存続には諦めの気持ちが入っている。田舎町の起爆剤としてのヒナゴン。決してうまくいくとは思えない流れ。予想通り、イッちゃんの足を引っ張ることになる。しかし、そんな逆風であっても、まったく萎えることがない。このイッちゃんというキャラクターの魅力が下巻をすばらしいものへと作り上げている。ラストへ続く決断であっても、熱くそして感動を引き起こしている。田舎のヤンキーは熱く義理堅く、そして無鉄砲でなくてはならない。そう思わせる結末だ。

比奈町の行く末を左右する町長選。上巻では想像できなかった結末となる。そこへいたるまでの様々な要因が、町長選の結末を感動あるものに引き上げている。田舎を忘れて久しい都会人に、田舎のよさを思い起こさせるような作品だ。ただ、自分の田舎にイッちゃんのような熱い町長や、西野くんのような町のことを考える若者。そして、ノブのような田舎を忘れない人がいるだろうか。虚構とわかっていながらも結末は感動を引き起こす。エピローグで、ノブが東京へ戻っていたのも、現実的でよかった。不自然に田舎町大好きとなるのは、やはりおかしいからだ。

上巻からは想像できないほど、感動を引き起こす終わり方だ。



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