星に願いを-さつき断景 重松清


2009.9.14  激動の時代 【星に願いを-さつき断景】

                     
■ヒトコト感想
1995年から2000年まで、3つの家族の五月を描く本作。当時の、主に事件を語りながら、別世代の三人を描いている。当時の出来事を思い出すのはもちろんのこと、あのころには気づかなかったことや、今考えるととんでもない時期だったのだという思いが強くなる。登場人物たちは作者お得意の、普通なのだが、どこか不満や不安を抱えている者たちだ。当時の年齢でいうと、タカユキに一番近いのかもしれない。同じような考えとはいかないが、世間の出来事に対してそれほど敏感ではなかった。そんな頃を思い起こさせ、大人になった今、当時を考える良いきっかけとなっている。こうやって文章にされると、激動の時代だったのだなぁという思いが強くなる。

■ストーリー

地下鉄サリン事件、そして阪神大震災が起きた一九九五年。復興ボランティアに参加した高校生のタカユキは、自分が少し変わったような気がした。サリン事件の衝撃を引きずるヤマグチさんは、娘の無邪気さに癒された。五十代のアサダ氏は、長女の結婚で家族の存在を実感した―。不安な時代。それでも大切なものはいつもそこにあった。三人が生きた世紀末を描く長編。

■感想
とりわけ、家族について描いている本作。時代時代の事件を織り交ぜながら、閉塞感や不安感を感じさせる描写もある。しかし、世間がどのようになっていても、そこに家族がある限り、悩みは家族のこととなるのだろう。進路に悩む高校生のタカユキ。時代に関係なく、どこにでもいるようなタイプだ。タカユキは世間の出来事などほとんど意に返さない。自分も同じように、阪神大震災やオウム事件が起こったときも、興味本位で見てはいたが、特別な思いはなかった。タカユキは本作の中で一番共感できる部分が多かった登場人物かもしれない。

サリン事件にニアミスし、それを引きずるヤマグチ。娘との関係に悩むお父さんの姿を描いている。当時は、小さな子供が狙われる事件が多発していた。それを気にして、必要以上に神経質となる。小さな娘を持つ親の気持ちと、家族との関係。世間的な出来事に一番影響される年代でもあるのだろうと感じた。もしかしたら、今の実年齢でいくとヤマグチに一番近いかもしれない。年頃の娘の成長を喜びつつも、寂しさを覚え、トラウマとなった経験をどうしてよいのかわからない。ごく一般的なようで、この時代に生きた特殊性を感じさせる人物だ。

最後は五十代のアサダ氏。長女が結婚し、妻にも先立たれ、無口な息子との気まずい時間を過ごす。自分が父親と二人っきりで過ごすときの、なんとなく気まずい気持ちを思い出してしまった。お互い当たり障りのない会話を繰り返したり。当時の出来事として、何か大きな影響を及ぼしたかというと、この世代にはあまり関係のないように思えた。古今東西、子供たちが巣立ち、連れ合いに先立たれた男はこうなってしまうのも当然なのかもしれない。なんだか、無性に父親のことを考えてしまった。

懐かしさを感じる出来事を表現しながら、当たり前の生活を描く。いつの時代も変わらないということなのだろうか。



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