半パン・デイズ 重松清


2009.11.23  否が応でも田舎を思い出す 【半パン・デイズ】

                     
■ヒトコト感想
瀬戸内海の小さな町へ引っ越してきたヒロシ。ヒロシの小学校入学から中学校入学までを、周りの環境を含め、上質な物語化している。まず、この田舎町の方言が自分の田舎とぴったり合致するので、それだけである意味親近感がわいてくる。それでいて、今までの重松清作品と比べ、主人公のヒロシが気持ちの良い人物になっているということで、スラスラと楽しんで読むことができた。中には少しホロリとさせるようなエピソードもある。アホで変なところに意地を張り、女子を意識しながら興味のないふりをする。すべてが自分の少年時代にも当てはまることであり、感情移入できる。ヒロシのように大人びた考え方をしていたのだろうかと、一瞬悩んだが恐らくしていたのだろう。すべてになんだか共感できてしまった。

■ストーリー

東京から、父のふるさと、瀬戸内の小さな町に引越してきたヒロシ。アポロと万博に沸く時代、ヒロシは少しずつ成長していく。慣れない方言、小学校のヤな奴、気になる女の子、たいせつな人との別れ、そして世の中…。「青春」の扉を開ける前の「みどりの日々」をいきいきと描く、ぼくたちみんなの自叙伝。

■感想
東京から田舎へ引っ越してきたヒロシ。時期は違えど、自分も都心から引っ越してきたものとして、まずこの部分にやられてしまった。家庭環境は違うが、新たな環境で悩み、親との関係に悩み、いとこや親戚との関係に四苦八苦する。子供でも悩む時は悩み、辛いときは辛いのだ。ヒロシがウジウジとした問題児ではなく、どこか爽やかで、それでも優等生ではない、どこにでもいる小学生だというのもよかった。クラスではリーダーになれそうでなれない。微妙な立ち位置。スポーツ万能ではないが、サッカーが得意。どこにでもいる小学生なヒロシが悩み苦しみ、そして笑う姿は読んでいてとても爽快だった。

いくつかのエピソードは強く印象に残っている。おじさんの会社で働く年上のお兄さんが、荷抜けをして広島の実家へ帰るエピソードは、なんだかホロリときてしまった。そして、エピソードはともかくとして、そのネーミングセンスに爆笑してしまったのが、”ちんこばばあ”だ。何かにつけてちんこばばあというその言葉を見て、想像しては笑ってしまう。しんみりとしたエピソードのはずなのに、その文字がでてくるだけで、無性に笑えてしまった。似たような状況があっただけに、より感情移入してしまった。

本作で語られるヒロシの内面描写は、すべてをあらわしているような気がした。照れやプライドから強がってはみたものの、内心は思うことがある。素直になれず、それを理解しながらも、なお素直になれない。この時期独特の反抗期になる前の微妙な心境。これほど自分の少年時代とダブって感じたことはなかった。大切な人との別れ。親友というのは照れくさいけど、友達というよりはもっと近い関係。小学生時代は相手のことを考えながらも、小学生らしい残酷さで、ずばりときついことも言ってしまう。変に社交辞令を知らないだけに、ヒロシやヨッさんの言葉には、真実が含まれている。子どもの心を忘れて久しい大人には、時にずしりと心に響くような言葉があった。

なつかしの方言と、リンクする少年時代。これだけそろっていれば、はまらないはずがない。



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