グロテスク 上 桐野夏生


2010.2.14  女がはなつ強烈な悪意 【グロテスク 上】

                     
■ヒトコト感想
女の悪意の物語。”わたし”がなぜこれほどまでにユリコや和恵に悪意をもつのか。ユリコと和恵の事件がきっかけとなり、刑事か何かに事情聴取でもされているのだろうか。”わたし”が語る世界には、和恵とユリコに対しての悪意しかない。女子高というだけで、どこか陰湿なイジメの巣窟というイメージがある。そこに通う”わたし”とその周りの人々。”わたし”の悪意の源がなんなのかはっきりしない。そのため、根拠のない言いがかりのようにも感じられてしまう。むき出しの闘争心や、必死な姿が悪意を生むのかもしれない。この”わたし”に対しては、健全なイメージをもつことは決してない。しかし、”わたし”とユリコが生活する空間というのは、とても興味深く目が放せない世界でもある。

■ストーリー

名門Q女子高に渦巻く女子高生たちの悪意と欺瞞。「ここは嫌らしいほどの階級社会なのよ」。悪魔的な美貌を持つニンフォマニアのユリコ、競争心をむき出しにし、孤立する途中入学組の和恵。ユリコの姉である“わたし”は二人を激しく憎み、陥れようとする。

■感想
ユリコと和恵の事件がきっかけとなり、”わたし”がユリコと和恵に対する思いを語る本作。ユリコと和恵を殺した犯人はすでに判明しているため、ミステリーという流れではない。”わたし”が語るユリコと和恵の思い出というのが普通ではないため、そこに何か大きな理由があるのではと考えてしまう。”わたし”がふりまく他人に対する悪意。名門女子高という、ある意味閉鎖された空間で繰り広げられる様々な駆け引き。イジメとはまた別次元の強烈な選民意識がそこにはある。読んでいると、いつの間にか”わたし”と同じくQ女子高に紛れ込んだ気分になる。

ずっとこのままの流れでいくのだろうか。メインは”わたし”が語るユリコと和恵の思い出。そこに何か劇的な事件が起こるわけでもなく、悲惨な結末を迎えた二人がどこで変わったのかを語るだけなのだろうか。”わたし”の語り口は、自分が二人に対して抱いた悪意というのを隠していない。そのため、悪意に対しての後ろめたさというのが一切なく、どこか”わたし”は悪くはなく、悪いのはすべてユリコと和恵なのだと思わせる雰囲気すらある。スイス人と日本人のハーフである”わたし”が親を含めて、周囲にふりまく悪意の原因は本作では伺い知ることができなかった。

本作を読むと、女子高というのが世にも恐ろしい場所のように感じてしまう。名門なだけに、あからさまなイジメはなくとも、格差から明らかになる差別はある。ある意味異常な空間でもある女子高。”わたし”の生活を通して、ユリコと和恵がどうなっていくかを追っていく物語なのだろう。やはり、作者独特のブラックな部分がふんだんにでている本作。即物的なブラックさというよりも、精神的に押し寄せるプレッシャーというのだろうか。リアルに女子高に通っている人が読むと、人間不信に陥る可能性すらある。

結末がうんぬんよりも、下巻でどのように、より強烈な悪意が発せられるのか、気になるところだ。

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