2010.2.18 東電OL殺人事件の真相? 【グロテスク 下】
■ヒトコト感想
上巻ではQ学園での”わたし”とユリコと和恵の関係がメインとなっていた。それが下巻では怪物と化した和恵や、大きく変貌をとげたミツルの境遇が語られている。現実の事件をモデルにしたと思われる和恵。どうしてこうなってしまったのか、作中で語られていることだけでは、やはり納得はできない。はたから見れば恵まれた環境であっても、本人がどうとらえるかによって、大きく違ってくる。和恵が変化していく過程はリアルだが恐ろしくもある。和恵という怪物と、それに紐づくように連なる中国人のチャン。犯罪を犯した者の心の闇のルーツを探り、落ちていく女たちの原因を探るような本作。手記形式のため、主観的な部分が多くを占めるためか、非常に重く暗い作品に感じられた。
■ストーリー
就職先の一流企業でも挫折感を味わった和恵は、夜の女として渋谷の街角に立つようになる。そこでひたすらに男を求め続けて娼婦に身を落としたユリコと再会する。「今に怪物を愛でる男が現れる。きっと、そいつはあたしたちを殺すわよ」。“怪物”へと変貌し、輝きを放ちながら破滅へと突き進む、女たちの魂の軌跡。
■感想
和恵のモデルとなったのは東電OL殺人事件の被害者だろう。まるで事件の真実を暴くように、関係者たちの手記という形で独白されている。上巻で描かれた和恵の性格や家庭環境。ユリコという怪物的な美貌を持つ女の存在。すべてが和恵を怪物と変化させた要因なのかもしれない。しかし、和恵が手記で語ることだけで、納得できるはずもなく、どこか不自然な印象はぬぐえない。Q学園において優等生であったミツルであっても、一般社会へ出てからの変貌は、簡単に説明できるものではない。どのような心情でそうなったのか。それらの疑問をすべて独白が解決しているようには思えなかった。
モデルとなった事件を事前に深く知っていれば、また違った感想をもったことだろう。まったくの先入観なしに本作を読んだために、ただ頭のおかしな女の日常を語られているような気がしてならなかった。まともだと思われた”わたし”であっても、いくぶん悪意は弱まったとしても、どこか異質なことに変わりはない。それらがすべてQ学園からスタートしたことでも、ユリコのせいでもない。すべてはそうなるべくしてなる人物だったのだと思えて仕方がなかった。
何か結論がでるような類ではない本作。現実の事件を補完する意味で本作があるのだろうか。本作では上巻とまったくテイストが違っており、”わたし”の存在感はほとんどない。あるのは中国から渡ってきた、ユリコを殺した犯人であるチャンと、和恵の強烈な印象だけだ。あれこれ想像力を働かせ、作者なりに事件の本質を描こうとしているのだろう。もちろん、基本はフィクションなため、現実とリンクしてるとは思えない。それでも、本作だけ読み、事件を後から知ると、事件の被害者は和恵と同じような心情だったと思えてしまう。
ミステリー的な面白さよりも、それぞれの手記にいつの間にか引き込まれてしまう。
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