銀河不動産の超越 森博嗣


2009.11.16  楽しむには、理解が必要だ 【銀河不動産の超越】

                     
■ヒトコト感想
いつもの森博嗣風味は健在だ。ちょっと変わった不動産会社に勤務する高橋が、ひょうんなことから強大な部屋に住むことになる。そこに、いろいろないきさつから、様々な人が住み着いていく。巨大なワンルームの四隅に別人が住み着いているというイメージだろうか。登場人物たちの思考原理は相変わらずだ。森作品に共通する、どこかシニカルでユーモアを含んだ会話のようだが、実はただへ理屈を並べているだけ。それらすべてを含めて森作品のファンにはたまらないのだろう。人物たちがいっさい人間臭さを感じさせず、独特な文体とあいまって、すっきりとした冷たい印象を読者に与えている。中身は実はたいした内容はなく、ただ物語が淡々と進んでいくだけだ。

■ストーリー

気力というものを、私は認識できない。危険を避け、頑張らなくても生きてこられる最適の道を吟味するのが私の人生だったのだ―すべてにおいてエネルギィが足りない青年・高橋が就職した銀河不動産。そこを訪れるのは、奇妙な要望を持ったお客ばかり。彼らに家を紹介するうちに、彼自身が不思議な家に住むことになり…。

■感想
銀河不動産という奇妙な会社の社長と、妙齢な女性と共に働く高橋。巨大な部屋に引っ越すことになり、その部屋が偶然にも人を集めることになり、知らないうちに人がどんどんと住み着いてくる。話の内容的には、客としてやってきた人物が、何かしら無理難題を言い高橋を困らせる。とりあえず物件を紹介するが、気に入らず最後には高橋の部屋を気に入ってしまう。部屋探しの理由はそれぞれだが、だいたいこんな感じだ。森作品に共通するどこか悟りを開いたようなキャラクターである高橋。普通の若者とは違う、欲望や野心もない。ただ、日々を暮らしていければよいという、丁寧な口調で話すが、どこか冷めた印象を与える主人公。すべてが、森作品らしいと言えばらしい。

登場人物たちは、会話をするたびにちょっとしたユーモアを交えてくる。これが、結局はただのへ理屈だったり、揚げ足取りだったりする。現実にこんな人がいたら、途中でムカムカして話が続かないような気がした。そんな人間味のない登場人物たちと、現実感のない設定。頭の中には作中の描写をイメージするのだが、強大な部屋の中に小さなジェットコースターがあるなんてのは、普通に考えてもありえないことだ。かといって、ジェットコースターが何か劇的な影響を与えるわけではない。最終的に何が言いたいのかわからない可能性も多々ある。

いつもの森作品らしく、サラリと読み終わってしまう。独特なキャラクターと、丁寧でありながらも、相手を突き放すような人間臭さのない会話。それらを総合すると、切れ味鋭く感じてしまうから不思議だ。伊坂幸太郎の計算された会話とは違い、ただのへ理屈でしかないのだが、理系的思考を全面に、おしげもなく押し出しているのはかなり勇気がいることだ。恐らく森作品に慣れていなければ、途中で読むのをやめてしまうかもしれない。ハードルは高く、本作を楽しむにはそれなりの工夫が必要だが、はまる人ははまるのだろう。

この特殊性を理解できるか、難しいところだ。



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