幻色江戸ごよみ 宮部みゆき


2009.6.8  作者だから書けた短編集 【幻色江戸ごよみ】

                     
■ヒトコト感想
江戸を舞台にした短編集。作者の作品ではもうおなじみとなっている雰囲気。今までの作品どうよう、江戸の町で起こる様々な不思議な出来事を描いている。今回は不思議な出来事をそのまま不思議な出来事として描いている。さらには、結末をぼやかせ、その後の展開を読者に想像させるようになっている。内容は、まるで日本昔話のように読者に教訓を提示するようなものから、心温まるもの、さらには、後味が悪くちょっと心に引っかかる作品など、いろいろな種類の作品が収録されている。そのため、読んでいると、これはどのタイプかと想像しながら読んでしまう。醜い女が、美男子にみそめられたその理由は…。迷子の子供に引き取り手がなかなか現れないその訳は…。どこか心の中にある悲しみを投影しているような作品もある。作者が女性ということも本作の短編に色濃く反映されているような気がした。

■ストーリー

盆市で大工が拾った迷子の男の子。迷子札を頼りに家を訪ねると、父親は火事ですでに亡く、そこにいた子は母と共に行方知れずだが、迷子の子とは違うという…(「まひごのしるべ」)。不器量で大女のお信が、評判の美男子に見そめられた。その理由とは、あら恐ろしや…(「器量のぞみ」)。

■感想
様々な種類の短編が収録されている本作。短編といっても普通よりも短く、サラリと読めてしまう。短編の中でもさらに短い短編だろう。奇妙な出来事が起こり、そこにはいわくつきの理由がある。江戸の町で起こる不思議な出来事は、現代の奇妙な事件よりも、より真実味にあふれるような気がした。とりわけ、女中や丁稚奉公など現代社会では消滅した風習に関わることや、普通の恋愛ではなく、見初められてはじめて恋愛として成り立つ昔ながらのしきたりから、本作の物語に繋がるのだろう。これがまるっきり現代の物語だったら、これほどバラエティにとんだ作品にはならなかったことだろう。

大工が拾った迷子の子。迷子札を頼りにするが、まったく手がかりがつかめない。そればかりか、迷子の子の存在事態が怪しいものとなっていく。そのとき、親はどのような気持ちでいるのか…。子を持つ親の気持ちと、子を持ちたくても持てない親の気持ちが交錯する作品でもある。強烈なインパクトを残すことはないが、短編としては妙に心に残る。特にラストまでしっかりと結末を書ききらない方式は、読者にその後の展開を予想させる力がある。このあと、この家族はどうなったのか、そして、迷子の子は、またその親は…。作者は読者に考えさせるきっかけを与えたにすぎない。

「器量のぞみ」であっても、ちょっと特殊かもしれない。早い話がちょっとした呪いの話なのだが、そこは女性作者らしく、様々な思いがこめられているようだ。人は見た目じゃないという、うわべだけの言葉を否定する人が沢山いる。しかし、実際、本当のところはどうなのだろうか。醜く生まれた女が、なぜか美男子にみそめられる。その一家にはある呪いがかけられていた。その呪いを解くと、自分が醜いことがばれてしまう。はたして女はどうするのか。作者が男ならば、こういった作品は決して書かないだろう。いや、書けないかもしれない。例え書いたとしても、下手なきれいごとに聞こえるだけだ。作者だからこそ書けた作品だと思った。

江戸の様々な奇妙な話。そこにはいろいろな思惑が潜んでいるように感じた。



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