フィッシュストーリー 伊坂幸太郎


2010.3.10  作者独特の意味不明なキャラたち 【フィッシュストーリー】

                     
■ヒトコト感想
繋がっているようで繋がっていない短編集。いつもどおり作者の作品らしい切り口。登場人物たちが若干意味不明な言動と行動を繰り返す。それに対して疑問に思いながらも、迷うことのないはっきりとした言葉の魔力にやられてしまう。本作は今までのどの作品よりも、意味不明感が強い。たいしたオチもなければ、衝撃もない。摩訶不思議な言動と行動の数々に、何か大きな意味があるのではないかと思うが、最後まで何もなく終わっている。作者のファンならば、間違いなく楽しめるだろう。テンポ良い会話と、不条理さ。それぞれの短編に何か繋がりがあるのかと深読みするが、特にそんなことはなかった。作者のファンでない人が読むと「金返せ」と思うかもしれない。

■ストーリー

最後のレコーディングに臨んだ、売れないロックバンド。「いい曲なんだよ。届けよ、誰かに」テープに記録された言葉は、未来に届いて世界を救う。時空をまたいでリンクした出来事が、胸のすくエンディングへと一閃に向かう瞠目の表題作ほか。

■感想
それぞれの短編にリンクした登場人物だったり、出来事だったり、雰囲気だったり。どこか独立した短編ではないような雰囲気がただよう本作。それぞれの短編では、相変わらずというか、これが作者の売りなのかもしれないが、意味不明な会話と、根拠のない自信に満ち溢れたキャラクターが登場する。どこか砂漠的な雰囲気もあるが、砂漠のようにしっかりとしたオチや結末があるわけではない。どこか結末をぼやかしながら、伏線を放置し不思議な感覚のまま終わりまで突っ走っている。おそらく意味を求めるべきではないのだろう。全体の雰囲気を楽しむ作品だ。

作者の作品独特の雰囲気は健在だ。というか、いつも以上に意味不明な会話を繰り広げている。会話だけでなく、設定もどこかぶっ飛んでいる。ミステリーでもなければ、最後にあっと驚くような何かがあるわけではない。かといって、若干ハートフルな雰囲気はあるが、それをメインにしようとはしていない。空き巣を仕事とする男や、売れないロックバンド。人探しを依頼された泥棒であったり、深夜の動物園に忍び込む男など。普通では思いつかないような設定ばかりだ。この設定であれば、否が応でも何か衝撃的なオチが待っていると期待してしまう。

作中には嘘かホントかわからない言葉の数々が連なっている。そして、どこか俗世間と切り離された世捨て人的な雰囲気のあるキャラクターたち。ストレスにさいなまれ、ピリピリとした現代社会の日本人には、決して存在しないようなタイプのキャラクターばかりだ。例えるなら、南の島でのんびりと生活するちょっと文化的な原住民のような感じだろうか。それらのキャラクターが現代を舞台に不思議な出来事を引き起こす。そこには多少の意味はあるが、驚くほどのことではない。全体的に内容は微妙だが、ほのぼのとした印象を最後まで植え付け、離れることがない。

しかし、大きな驚きや衝撃はない。



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