ファイアーボール・ブルース2 桐野夏生


2009.11.10  女子プロレス短編集 【ファイアーボール・ブルース2】

                     
■ヒトコト感想
前作は火渡が謎の失踪事件を追いかけながら、ラストには謎の強者と戦うという、いかにも格闘もの的な流れとなっていた。女子プロレスがテーマということもあり、なかなかとっつきにくかったが、普通にないテーマなので興味深く読むことができた。本作は前作のキャラクターたちを使って、そのまま短編として描いている。女子プロレスという特殊な世界と、伸び悩む近田という女子プロレスラーの周りで起こる出来事。ベースが女子プロレスということで、なじみにくいのは確かだ。本作が発表された当時ならまだしも、今は女子プロが存在しているかさえ怪しい。そんな状況でも、仲間内での嫉妬やレフリーの思いなどが語られている。感情移入するのは難しいが、少し変わった世界が描かれている。

■ストーリー

女子プロレス界きっての強者・火渡抄子。人は彼女を「ファイアボール」と呼ぶ。火渡に憧れ入門し、付き人になった近田。仲の良かった同期・与謝野の活躍を前に、自分の限界が頭をかすめる。そんな折、火渡が付き人を替えると言い出した。近田は、自分にどうケジメをつけるのか。女の荒ぶる魂を描いたシリーズ完結篇となる連作短篇集。

■感想
前作は火渡の強さというか、格闘描写が描かれていた。女子プロレスをテーマとしているから、それは当然のことなのだが、本作ではそれがない。見方を変えると、女子プロというテーマではあるが、ちょっとした企業のOLたちの内幕といっても言い過ぎではないかもしれない。女だけの特殊な世界。閉鎖的でもあり、周りからは計り知れない何かがある。お互い生活を共にしながら、試合になれば対戦相手として全力で戦う。まだ二十代前半でありながら、ひときわ厳しい世界に立つ女たち。純粋に変わった世界を垣間見るという意味では、本作を読むのは正しいのかもしれない。

前作と異なり、本作は短編だ。そのため、複雑なミステリーや壮大な冒険物語というわけではない。火渡が前作ほど活躍することがなく、あくまでも女子プロとしてぱっとしない近田がメインとなっている。主には、実力がないのに起因しての不人気。そして、同期の与謝野がファンクラブができ、プレゼントを貰うほどにまで成長し、それに対しての嫉妬。女のみの世界だけに、閉鎖的な世界での嫉妬は増幅されるのだろう。過酷な世界であり、男顔負けな社会でありながら、女の恐ろしい部分は増幅されている。近田の目を通して語られる本作は、女子プロの華やかな部分を感じることはほとんどできない。

本作を読んで頭の中にイメージできたのは、かろうじてキューティ鈴木レベルだ。恐らく与謝野などはそのあたりをイメージしているのだろう。作者は火渡を神取とダブらせているようだが、その他のキャラクターをどんなイメージで読んだらいいのか、少し混乱してしまった。身近にいる普通のOLではないのは確かだ。筋肉質で体もでかい女性というのはなかなかイメージしにくい。流血しながら戦う姿もすぐには想像できない。未知の世界を描く本作だけに、そのあたりは難しい部分なのだろう。本作は女子プロに詳しい人ならばまったく問題ないが、まったく知らない人にとっては、かなりハードルが高いかもしれない。

シリーズものの短編としては、ちょっとインパクトが弱いかもしれない。



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