ファイアーボール・ブルース 桐野夏生


2009.10.29  女子プロがテーマなのは珍しい 【ファイアーボール・ブルース】

                     
■ヒトコト感想
女子プロレスをテーマとした本作。今までこの手の作品は読んだことがなかった。格闘技系でいうと夢枕獏の作品は読んでいたが、女子プロをテーマとした作品には、初めて出合った。やはり最初は違和感があり、どこかしっくりこない感じだった。しかし、読んでいくうちにキャラクターを頭にイメージすることができ、地味な強さというものをしっかりと理解することができた。物語的には謎の殺人事件が起こったりと、無理やりミステリーチックにしてはいるが、それはおまけにしかすぎない。ラストの空手の達人と火渡の戦いは、ドキドキしながら読んでしまった。餓狼伝とはまた違ったドキドキ感だ。珍しいテーマなだけに、とっつきにくいかもしれない。

■ストーリー

胸が熱い、心が燃える。ハードボイルド女子プロレス小説。身長170センチ、体重70キロ。筋肉質の均整の取れた体型。短く刈り込んだ髪…。リングの女王・火渡抄子が謎の失踪事件と大バトル。殺人事件に挑む。

■感想
女子プロレスの世界を描いた本作。女子プロの厳しい序列や規則など、うっすらと知ってはいた。本作はそんな女子プロの厳しい世界を少しだけ表現しているが、メインは女子プロを取り巻く環境と、一人の強烈な個性をもつレスラーの姿を描いている。火渡というアマレスあがりのレスラーが、華々しい活躍をするトップレスラーと戦い破っていく。その過程で、対戦相手だった外国人女子レスラーが無残な死体となって現れる。物語はいっきにこの殺人事件の謎を解くという流れにうつっていく。女子プロの世界が薄給で厳しいというのはなんとなくだが想像できた。それ以外の部分でも、女子プロの雰囲気を十分に味わうことができる。

マットに残った謎の血や、夜中に聞こえた叫び声、そして、指紋を削り取られた死体。いっぺんにミステリー+謎の強者の登場を予感させる流れとなる本作。レスラーを血祭りに上げる、なぞの強者に次々と仲間が倒され、火渡が最後に戦うという流れを想像していた。気持ち的には、強者対強者という夢の対決を想像し、かなりわくわくしてきたが、途中からその流れが変わってくる。謎がだんだんと解け、強者の正体が明らかとなってくると、テンションはだんだんとおさまってくる。火渡と近田コンビの探偵もちょっと中途半端で、特別な技術があるようには見えなかった。後半からは無理やりミステリーとして成り立たせようとしているように思えた。

ラストでは、謎の強者と火渡のタイマンが行われる。さすがにその場面では、緊迫感あふれ、レスラーの戦いというものがしっかりと頭の中に描くことができる。ただ、格闘描写に長けているかというと、そのあたりは微妙かもしれない。夢枕獏の餓狼伝シリーズと比べると、明らかに臨場感に欠けている。頭の中で火渡の動きは想像できるが、その細部にわたってどのような駆け引きがなされたかはなかなかイメージできなかった。格闘系とミステリーを融合させたような本作。かなり新しいというか珍しい世界を描いていると思う。それだけに、読むほうとしてもかなりハードルは高くなる。

女子プロレスファンならば、存分に楽しめたのだろうか…。



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