ダイイング・アイ 東野圭吾


2010.5.13  昔の東野圭吾風だ 【ダイイング・アイ】

                     
■ヒトコト感想
記憶をなくす前も描かれながら、なくした後がメインとなっている本作。様々な仕掛けと、「そんなまさか」と一瞬思わせる巧妙さ。昔の東野圭吾作品を連想させる流れだ。特に記憶をなくした雨村に少しずつ真実が明らかになる部分など、ミステリーの醍醐味が十分に味わえる作品となっている。よく考えれば、雨村は記憶をなくす前は、事故のほとんどすべてを知っていたはずだが、新たに見えた真実によって事故に対する思いが大きく変わってくる。どことなく「変身」を連想させるような雰囲気すらある。記憶をテーマとしながら未知の技術や科学では証明できない出来事が起こる。読者は結末をある程度予想するが、まさかそのままトリックとして成立するとは思わなかった。気になる部分は多々あるが、熱中できる作品だ。

■ストーリー

記憶を一部喪失した雨村槇介は、自分が死亡事故を起こした過去を知らされる。なぜ、そんな重要なことを忘れてしまったのだろう。事故の状況を調べる慎介だが、以前の自分が何を考えて行動していたのか、思い出せない。しかも、関係者が徐々に怪しい動きを見せ始める…。

■感想
記憶をなくし、本来なら知っているはずの事実を知らない雨村が、自分の記憶を探りだすことがメインとなる本作。読者は雨村と同じように事件の概要はわかっているが、詳細はわからない。そこにどんな事実があり、どんな取引があったのか。すこしづつ見えてくる事実から予想するが、その予想はことごとく裏切られる。極めつけは怪しい女の登場により、物語はマネキン作家である男の秘密にも繋がってくる。事故の本当の真実がわかった時は、予想外のことだったので驚いた。そして、女の正体も…。新たに判明する真実に、いちいち驚いてしまった。

ここ最近の作者の作品は社会派と言われるものが多い。それらと比べると、本作は明らかに昔のにおいを漂わせている。トリックを最初に考えながら、読者をいかに煙に巻くか。見事にやられてしまったのだが、それは心地良い騙された感だ。記憶をなくすたぐいの作品は、作者は多く書いている。その中でも「変身」に近いのではないかと思った。記憶というよりも隠された真実を暴いていく感覚。ありえない技術を臭わせるトリック。そして、オチはどちらも想像してはいたが、まさかそのまま科学的な解明がされず終わっているとは思わなかった。

ところどころに伏線として用意したはいいが、結局回収されないまま放置されている部分もある。細かいことを言うときりがないが、わりと物語の主要な謎に関わる部分もある。女が雨村との子供を作りたがった理由はなんだったのだろうか。雨村を監禁した理由は?うやむやにされたまま、不可思議な能力として締められた本作。納得いかない部分は抜きにしても、十分熱中し楽しめる作品には間違いない。まるで連載マンガを読んでいるように、次々と登場する新たな事実。そして、次回へと繋がるような引きの強さ。読み始めたら一気に読み終えてしまうことだろう。

ここまで引き付けて離さないのはさすがだ。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp