冒険の国 桐野夏生


2010.1.5  閉塞感あふれる物語 【冒険の国】

                     
■ヒトコト感想
独特な雰囲気を持った作品。全体的にただよう閉塞感。新たに生まれ変わった街から取り残されたように過ごす家族たち。主人公である美浜が感じる家族のあり方と、親しい関係にあった森口兄弟との関わりがメインに語られている。自殺した英二と取り残された美浜。新しく変わっていく街とは対照的に、変わらない生活を続ける家族の物悲しさを語っているのだろうか。英二という触媒が欠けたことで、家族の関係も崩れていく。家族という形を保ちつつも、内情はすでに壊れてぐちゃぐちゃな家庭を描いているようにも感じられた。周りにフレッシュな若い家族たちが住み始めたというのも、美浜たち家族が取り残された現状を浮き上がらせたかったのだろう。

■ストーリー

永井姉妹と森口兄弟は、姉と兄、妹と弟が同級生同士で、常に互いの消息を意識してきた。特に、弟の英二と妹の美浜は、強い絆で結ばれていた。が、ある日、一人が永遠に欠けた。英二が自殺したのだ。美浜は、欠落感を抱えたまま育った街に帰って来る。街はディズニーランドが建設され、急速に発展していた。そこで、美浜は兄の恵一に再会する。

■感想
ミステリーというわけでもなく、何か明確な終わりがあるわけでもない。過去の出来事が、些細なことをきっかけとして浮かび上がってくる。英二の自殺というものが、家族にどれだけ大きな影響を与えたのか。ちぐはぐした家族関係が、外から見るとかろうじてその形を保っているように見えても、実は内部は崩壊していた。ある程度年齢をかさねた家族というのは、その中に新しい若さというものが存在しない限り、終わりに近づいていくだけなのだろう。全てがすべてそうであるわけではないが、本作を読むと、だだ消えていくだけのように感じられた。

なんでもない日常の中に、突然昔の知り合いと出会い、そしてそこから物語は大きく動いていく。ギクシャクした家族を連想させるような描写ばかりが登場する本作。もしかしたら、それは美浜だけがそう感じているだけで、真実はそうではないかもしれない。しかし、美浜の目から見た家族というのは間違いなく崩壊しているのだろう。ただ、英二の自殺がすべての原因だとも思えなかった。たとえ英二が生きていたとしても、結末は変わらないような気がした。

急速に発展していく街に取り残された美浜。同じく、ビルのオーナーや地上げ的な仕事をする英二の兄の恵一など、新旧が入り混じり、古いものを排除しようとする。美浜の周りには、若さがなく、どこか閉塞的で先細りするようなイメージしかなかった。幸せな家族であっても、心はバラバラ。この手の家族の真の姿を描いたのが本作なのだろうか。作者のデビュー前の作品ということもあり、今までの作者の作品とは違った文学的な雰囲気がある。

何かはっきりとした結末があるわけではない。人によっては消化不良に感じるかもしれない。



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