青い鳥 重松清


2010.2.6  ズシリと重く心に響く 【青い鳥】

                     
■ヒトコト感想
吃音の村内先生が悩む生徒たちと対話をする物語。短編集だが、その内容は深い。イジメはダメ、悪いことだからしてはいけませんよ。なんていうステレオタイプなイジメ小説ではない。イジメをする側もされる側も寂しい生徒だということ。そして、村内先生はそんな生徒のために近くに居てあげるということ。表面上だけ、仲良くしましょうだとか、イジメはいけませんなんて言っても意味がない。寂しい生徒には村内先生が必要なのだ。吃音で話の聞き取りにくい村内先生が話す言葉は重要なことしかない。一言一言がズシリと重く心に響く。人によっては綺麗ごとだとか、都合が良すぎると思うかもしれない。しかし、こんな先生が身近にいたらどうだろうか。現実的ではないが、むしょうに感動してしまう。

■ストーリー

村内先生は中学の臨時講師。言葉がつっかえて、うまくしゃべれない。でも、先生は、授業よりもたいせつなことを教えてくれる。いじめ、自殺、学級崩壊、児童虐待…すべての孤独な魂にそっと寄り添う感動作。

■感想
イジメや学級崩壊など社会的問題となっている部分を短編として扱っている。ただ、単純に解決策を提示しているのでもなければ、警告を与えるわけでもない。なんでもないことだが、一番大切なことを村内先生は教えてくれるような気がする。野口くんがいなくなった後、村内先生はどうしたのか。クラスの生徒を叱るわけでもなければ、何か罰を与えるわけでもない。形だけの反省文の無意味さと、本当に必要なことを村内先生は行動で示している。今までこのタイプの先生を扱った小説というのは読んだことがない。熱血ではないが、静かな熱い心を感じる先生だ。

今までの作者の作品をイメージすると、違いに若干戸惑うかもしれない。明確な答えはなく、それがすべてにおいて正解ではないかもしれない。しかし、村内先生の行動には、一貫した信念と説得力がある。寂しい生徒たちに一番必要なのは、誰かがそばにいてあげること。吃音というハンデを背負いながら国語教師をするということは、本作を読むまでまったく意識しなかった。そういえば、教師で吃音の人は今までであったことがない。というか、大人になって吃音の人にであったことがない。それはつまりハンデを隠す方向へと動いていくからだろう。それをあえてさらけ出す村内先生の思いをしっかりと感じることができる。

どうやら本作のひとつの短編が映画化されているらしい。おそらく感動する作品だろうが、村内先生をどのように描くかによって、かなり印象は変わってくるだろう。昔、Jリーガーの前園が「イジメかっこ悪い」というCMをやっていたが、それとは対極にあるのが村内先生のような気がした。イジメがどうだとか、学級崩壊がどうだとかいうレベルの話ではない。ひとりの生徒としてどうなのか。なぜ村内先生はこのような行動をするのか、考えると深すぎて思考の渦に飲み込まれてしまう。

短編ゆえにサラリと感動する良作だ。




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