あの歌がきこえる 重松清


2010.2.22  故郷山口を思い出す 【あの歌がきこえる】

                     
■ヒトコト感想
青春時代のあの想い。年代は違えど、そのときに聴いた思い出の曲というのは印象深い。そして、大人になり再び曲を聴くと、そのときの場面がはっきりと思い出される。特に作者の故郷と自分の故郷が同じということで、、登場する方言には懐かしさを感じずにはいられない。本作のような仲間や経験をしたわけではないが、地方から首都圏へ進学するなど、同じ経験をしているだけに、心に響くものがある。田舎ならでわのしがらみや、暖かさ。ふと、ふるさとの仲間たちが今どうしているかが気になってしまう。連絡をとらなくなって久しいが、昔の仲間の重要性を、本作を読んで想いだしてしまった。なつかしの名曲と共に、四十代の人にとっては、青春時代がフラッシュバックすることは確実だろう。

■ストーリー

意地っ張りだけどマジメなシュウ、お調子者で優しいヤスオ、クールで苦労人のコウジは、中学からの友だち同士。コウジの母親が家出したときも、シュウがカノジョに振られたときも、互いの道を歩き始めた卒業の日にも、三人の胸にはいつも、同じメロディーが響いていた。サザン、RC、かぐや姫、ジョン・レノン……色あせない名曲たちに託し、カッコ悪くも懐かしい日々を描く青春小説。

■感想
音楽というのは、その曲を一番良く聴いていた時代を想いおこさせる強烈な力がある。そのときは、なんの気なしに聴いていた名曲たち。何年後かに聴くと、心がいつのまにかそのころに戻ってしまう。青春時代に良い思いでがなかったとしても、どこかに昔を懐かしむ気持ちというのはあるはずだ。それが小学生時代だろうが高校生時代だろうがきっとあるだろう。本作の舞台は本州の西の端。つまり山口県ということだ。作者の他の作品からも山口を舞台にした作品が多いのはわかっていた。自分自身も山口出身で、田舎を捨て都会で働いている。年代は違えど、作者と同じような感傷に浸ることは十分にできる。

はっきり言えば、本作に登場する名曲たちにはほとんどなじみはない。ちょうどひとまわり昔という感じだろうか。しかし、そこで活動する青春小僧たちには、どこか自分とダブる部分があるような気がしてならなかった。等身大のリアルとでもいうのだろうか。女の子にモテモテの青春でもなければ、イジメられ暗い生活を送るわけでもない。ごく普通の青春。誰もがどこかのエピソードに感情移入できることだろう。忘れていた青春の一ページを、本作を読んで思い出してしまった。それも、作中に登場するちょっとした単語から連想し、「あいつは今頃どうしているのかなぁ」なんてことが頭をよぎってしまった。

いまや忘れかけた方言を思い出しながら、二度ともどらない青春をもう一度味わっているような気分となる。どんなにつまらなかった青春時代だとしても、何かひとつは良い思い出があるはずだ。強烈で他を寄せ付けない個性があるわけではないが、無性に心に残る。何度も読み返すたぐいの作品ではないが、もう一度読んでも同じように故郷を思い出すだろう。作者と同郷ということもあり、人よりも思い入れが深いのかもしれない。しかし、それを差し引いても、作者と同年代であれば確実にどこか心の奥の扉を開き、思い出が飛び出してくることだろう。

方言は都会人にとって、一番田舎を思い出させるツールだろう。



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