天切り松闇がたり4 浅田次郎


2008.8.17  大人になった松 【天切り松闇がたり4】

                     
■ヒトコト感想
このシリーズも回を重ねる毎に登場人物たちの年齢も上がっていく。今回は一気に昭和初期まで時代は進み、子供だったはずの松がいつの間にかいい大人となっている。それに伴って、その他の登場人物たちの年齢も上がり、最初に読んだイメージでは目細の安吉一家は若く有望な泥棒たちのイメージがあったのだが、年齢を重ねた渋いイメージが漂っていた。戦争を起こした日本をテーマとした本作。今までのちょっと悪くて金を持っているというような者達をターゲットにしたのとは異なり、今回は日本国家という巨大なものを相手にしている。たいそうな肩書きの付いた人物たちから勲章を盗む。盗んだ結果、金が手に入るわけでもなく、自分が特するわけでもない。周りをあっと驚かせる、この義賊的な働きはとても良かった。

■ストーリー

どんなやぶれかぶれな世の中だって人間は畳の上で死ぬもんだ。時は昭和。戦争という「巨悪」を仕掛ける「お上」に江戸の矜持を持ち続ける夜盗一味が立ち上る。

■感想
本シリーズはすでに三巻でているだけあって、登場人物たちのキャラクターはしっかりと確立されている。このキャラ立ち具合が素晴らしいために、そのエピソード自体も引っ張られるように魅力的なものとなっている。特におこんが関わる話は、唯一の女ということもあって、華がある。そして、儚げでちょっと悲しくもなってくる。これは、その他の男キャラクターたちが豪快で、特別何かを細かく気にする性質ではないために、よりおこんの繊細さが際立つようだ。女ならではのエピソードというのが無性に心に残っている。

安吉一家の面々の中で、ひよっ子だったはずの松がいつの間にかいい大人になっている。その割りには、その他の面々のプロフェッショナル具合に比べて、少しインパクトが弱いような気がした。それは、松の特技である天切りが栄治の受け売りであり、個別の特徴ではないのと、語り部が松自身のため、それほど自分を自慢しないというのもあるだろう。現代では伝説的な人物として登場し、説教をかます松。その松が伝説に至るまでの経過は今後順々に語られていくことだろう。

それぞれのエピソードになぜかほんの少し懐かしい雰囲気を感じた。別に昭和初期に思い入れがあるわけでもないのにそう思うのは、松が語る説教を含めた話というのが、なんとなく、おじいちゃんの昔話的な要素があるからだろう。興味深い物語を披露し、その中に含まれる本当の意味を相手に気づかせる。それに気づいた時、自分が今まで思っていたことが間違いだと気づき、改心する。押し付けがましくもないが、突き放しているわけでもない。適度な距離感というのがわかっているような、丁度良い語り口だ。

シリーズとして読むとかなりすぐれていると思う。本作だけを読む前に、1巻から3巻を絶対に読んでおくべきだろう。



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