天切り松闇がたり1 


2007.12.14 心躍る泥棒一味 【天切り松闇がたり1】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
大正ロマンと粋な雰囲気。義理人情にあふれ、いきで、いなせな怪盗たちが大活躍する物語。まず、目を引くのが泥棒一味、それぞれのキャラクターだ。まるでルパン一味のように、それぞれ得意な分野がある。そして、そこに入り込んだ新参者である松が経験したことを思い出話的に語られている。泥棒一味といいながらも、その規模は果てしなく大きくもあり、小さくもある。個人の仕事である泥棒家業をまとめ上げ、そして、お上と通じあう。盗んだ物を返せと言われれば返し、金は半返し。決して貧乏人からは盗まず、成金から拝借する。昔ながらの正義の大泥棒一味だろう。

■ストーリー

夜更けの留置場に現れた、その不思議な老人は六尺四方にしか聞こえないという夜盗の声音「闇がたり」で、遙かな昔を物語り始めた―。時は大正ロマン華やかなりし頃、帝都に名を馳せた義賊「目細の安吉」一家。盗られて困らぬ天下のお宝だけを狙い、貧しい人々には救いの手をさしのべる。義理と人情に命を賭けた、粋でいなせな怪盗たちの胸のすく大活躍を描く

■感想
昔ながらの講談に出てくるような正義の大泥棒そのままだ。金のあるところから盗み、貧乏人たちへ配る。義理人情に厚く、納得のいかないことにはとことん筋を通す。泥棒一味には女スリ師や押し込み強盗、空き巣、詐欺師、そして、神業的スリ技術を持つ親分など、まるでヒーローものを読んでいるような気分にさせられる。弱きを助け、強きをくじく。自分たちの利益のことなど、どこ吹く風。人間味あふれる泥棒たちの活躍を思う存分味わうことができる。

大正ロマンにふさわしい人物も登場する。民衆に嫌われているという設定の山形有朋が登場し、女スリ師である、おこんと相対することとなる。単純な勧善懲悪ものではなく、悪にも理由があり、善にも理由がある。盗む側にも盗まれる側にも、やんごとなき理由がある。泣けてくるようなエピソードもあれば、すっきりとさわやかな気分になれるエピソードもある。このキャラクターたちだからこそできる物語だろう。なんだか、
漫画やドラマになってもいいほどキャラ立ちしている。

おそらく本作は、作者の留置場での経験が生かされているのだろう。数々の武勇伝がありながら、大正ロマンを語る。実際にある程度の経験がある作者だからこそ書けたものなのかもしれない。そして、作者の真骨頂である、しんみりとした気分にさせる読後感。この感覚は、登場人物たちの心の奥底にある、悲しさやせつなさを表現した結果なのだろうか。

このキャラ立ちした泥棒一味たちが、思う存分暴れる姿はまだまだ続く。引き続き読み続けるだろう。



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