愛と幻想のファシズム 下 村上龍


2009.2.27  弱い者が淘汰される世界 【愛と幻想のファシズム 下】

                     
■ヒトコト感想
上巻の衝撃そのままに下巻も鈴原冬二と狩猟社は突っ走っていく。巨大な敵である「ザ・セブン」とどのように戦うのか、そして無事生き残ることができるのか。強力な敵に立ち向かう姿にワクワクした上巻。さらに攻撃の手を強める狩猟社。もう少し「ザ・セブン」からの激しい攻撃があるかと思いきや、物語はあっさりと狩猟社の思惑どおりに動いていく。冬二の思考原理は相変わらずの突発的で、言い切り型のため説得力があるように思えるが、その根拠は希薄だ。にもかかわらず魅力にあふれるのは、狩猟社のブレーンたちと共に、カリスマ的魅力にやられているせいなのだろう。最後の対決がすこし拍子抜けしたが、アメリカやソ連の負けを認めた言葉がとても印象的だった。

■ストーリー

恐慌後、ソビエトのIMF加入など、世界には奇妙な動きが相次いだ。それらは巨大金融企業集団「ザ・セブン」の暗躍を示すものだった。「ザ・セブン」はゾビエトと秘密協定を結び、危険なイスラエルを排除、日本を完全属国とするプランを実行に移していく。政治結社「狩猟社」は、「ザ・セブン」と対決すべく、自衛隊による擬装クーデターを起こし、ゼネスト後誕生した革新政権を倒して、イスラエル過激派と手を組み核の製造にも着手、さらに海底ケーブル切断による情報封鎖で、新たなパニックを誘発する。カリスマ鈴原冬二ひきいる「狩猟社」は日本を支配し、米ソ共同管理を崩すことができるのか?

■感想
「ザ・セブン」との戦いはどうなるのか、それが下巻のポイントとなる。予想したよりもあっさりと、そしてそれほど激しい抵抗無く狩猟社の勝利として物語は終わっている。それも、明確な勝利というのではなく狩猟社の思い通りにことが進んだということで、勝利を匂わせている。ゼロが自殺したとき、その原因として自分たちが手を下したのではないと弁解するアメリカやソ連。それらを読むと、本当に狩猟社が勝ったのだという実感がわいてくる。

独裁者として君臨するはずの冬二だが、そこには対外的な強引さは見受けられない。身内に対しては厳しい言動や、突発的に発する言葉には驚かされるが、それだけだ。万田との戦いにおいてもどのような論理からあのような結論に至ったのか。いくつかポイントとなる戦いはあったのだが、それらすべては冬二の決断であっさりと暴力的な解決で終わっている。世界的な危機に、冬二はどのような理想をもって狩猟社、および日本を導いていくつもりなのだろうか。そのあたりをはっきりとは読み取ることができなかった。

強いものが生き残り、弱いものが淘汰される世界。ある意味経済的な面では今の日本はそうなっているのだろう。経済格差は広がるばかりで、両極端となる。しかし、死にはしないが、その現状はひどいものだ。今から20年以上前の作品として、この世界を予想していたのだろうか。直接的な死ではないが、経済的には死も同然である。強いものが生き残り、弱いものが死んでいく。高度に成長した資本主義の社会ではそこに行き着くのは当然の結果かもしれない。

かなり前の作品のはずなのに、まったく色あせていない。逆に新鮮さを感じるくらいだ。



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