愛妻日記 重松清


2008.9.10  なまめかしさばかりが残る 【愛妻日記】

                     
■ヒトコト感想
中身を知らずに読むとかなり驚くことは確実だろう。今までの作品とは明らかに異質だ。作者としても官能小説と謳っているだけに、確かにインパクトはある。単純にエロ描写を増やしたというのではなく、根本から違っている。村上龍がよくSMの描写をするのだが、それは物語の一部としての流れであるが、本作はSEX描写がメインとなっている。タイトルが愛妻日記とあるように、それぞれの短編に登場する男女はそれほど若くはない。かなり勝手な解釈だが、他人のSEXを覗き見るとしても、若い方が良い。どうしても中年の性というものに、多少の抵抗感がある。それは恐らく自分の両親をイメージしてしまうからだろうか。そう感じてしまったからしょうがない。

■ストーリー

『ごめんね、ごめんね…。妻をいままで辱めなかったことを詫びたのでした』。直木賞作家による匿名の官能小説として大反響を呼んだ表題作のほか、夫のゆがんだ情欲を描いた全6編。「家族と夫婦の物語を書き続けたいから」こそ書いた、著者初の“超インモラルな”性愛小説集が今、その禁断の扉を開く。

■感想
明らかに官能小説だ。今までの作者の作品からは想像できない作品だ。最初は多少面食らったが、読んでいるうちにそれにも慣れてきて、徐々に新鮮さを感じ始めてきた。物語中にSEXの描写があることはまあ、よくあることだ。それらは物語の一部として、まったく違和感なく読むことができる。しかし、本作はそれそのものがメインとなっているだけに、最初は新鮮だったが、段々とお腹一杯になってきたような気持ちになってくる。夫婦それぞれのキャラクター付けが曖昧なままSEXに突入されると、本当に即物的な印象しか残らない。それを目的とした作品なのだから、しょうがないのだろうが…。

中年の性というものをどう感じるか。はっきりいえば現実とリンクさせるのは辛い。頭の中でイメージするととても生々しく、美しさの面でも、中年よりは若い方が良い。中年ならではの熟した何か別の魅力というのはあるのだろうが、それを好むような趣味はないので、生々しさばかりが印象に残っている。誰でもやっていることなのだが、現実世界の生活ではどこか隠れたひそかなものというイメージがある。他人に対してあからさまに想像したりはしない。それを想像させるのが本作だ。しかし、本作を身近なものとしてイメージするにはあまりに辛かった。

最初は新鮮さばかりが目立ったが、後半はダレてきた。基本は同じことの繰り返しで、シチュエーションが微妙に異なるだけだ。背徳感が人を興奮させるというのはある。それを目的とした短編も収録されている。家族や社会のあり方を描いてきた作家が突如として描く官能小説。そこには勝手な刷り込みとして、家庭的な何かをイメージしてしまう。そのためにただの官能小説が、悪いことをしているかのような印象を植えつけている。ただの夫婦のはずなのに、そこには作者的な家族の繋がりというものを感じてしまった。

はじけるような若さがない代わりに、なまめかしさばかりが残ってしまったようだ。



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