勇気凛々ルリの色 福音について 


2008.6.9 直木賞の重み 【勇気凛凛ルリの色 福音について】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
過去、このシリーズを三作読んできた。売れない時代から、大ヒット作を生み出し、本作ではとうとう直木賞までもとってしまう。そして、その後の安定期。なんだか読む順番に前後があるにせよ一人の無名な小説家のサクセスストーリーを読んでいるようで、面白かった。本作の趣旨とは離れるのかもしれないが、激烈なスケジュールの中、必死に作品を生み出し続ける作者の仕事ぶりを読んでいると、感動すら覚えてしまう。直木賞を受賞したくだりでは、繰り返し似たようなことを四回も書いているあたり、そうとううれしかったのだろう。他人事ながら、同じようにうれしくなってしまった。

■ストーリー

恋焦がれた直木賞。紆余曲折はあったけど、ついに雪辱、祝受賞。その前後の喜怒哀楽を、ときに格調高く、そしてときに下品に綴った貴重な記録の傑作エッセイ。他人の弱点を笑いとばし、自らの身を嘆息する。しかし我が道を信じ邁進し、手に入れたのが売れっ子作家の誉れと超多忙。力みなぎるエッセイ集。

■感想
いつにも増してプライベートな部分が多いような気がする本作。作中でも編集者に指摘されながら、さらにエスカレートしていく。どこまでが本当かわからないのだが、自虐的な部分や、編集者の弱点をさらすなど、他の作家のエッセイでは見えない部分を描いてくれている。それだけに、読んでいると作者に対してものすごく親近感がわいてくる。生活レベル自体はおそらく高いのだろうが作品からは、それが感じられない。根っからの庶民的感覚の持ち主なのか、ただの貧乏性なのか。苦労しただけに、豪遊に走るかと思いきや、そうではなかった。そのあたりも好感がもてる要因なのだろう。

本シリーズでは編集者に対して回し蹴りやバックドロップを食らわせるのが定番となっている。そればかりか、女性編集者であれば、勘違いも含め、セクハラまがいなことも何回か行っている。しかし、そんな作者でありながら、直木賞受賞に対しては、編集者に感謝しまくりだ。特に印象に残ったのは、同時期に依頼を受け完成させた二つの作品のどちらを直木賞候補作とするかという部分だ。付き合いが長ければ長いほど、どちらに対しても義理立てしなければならない。それを感じ取った編集者は、自ら相手に道を譲る。この潔さに作者ともどもしびれてしまった。

エッセイの中にはためにならない、なんでもないバカ話もある。しかし、これが出てくるタイミングが良い。必ずしもすべてのエッセイを興味津々で読めるはずがない。競馬に興味がなかったり、海外に興味が無い人にとっては面白くもなんともないエッセイもある。ただ、バカ話は誰もが共通して、楽しめる作品なのかもしれない。万国共通とはいかないまでも、日本人ならば、何かしら共感できるバカ話があるのがよかった。

軽く読めるエッセイでありながら、ほんの少し感動してしまった。直木賞の重さがここまでのものとは、本作を読んではじめてわかったような気がした。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp