陽気なギャングの日常と襲撃 伊坂幸太郎


2006.12.7 軽快なテンポと軽い雰囲気 【陽気なギャングと日常と襲撃】

                     
■ヒトコト感想
軽快なテンポと軽い雰囲気。登場人物たちには深刻さはない。すべてが遊びの延長線上のように感じられるほど軽い雰囲気が漂っている。借金で首が回らなかったり、誘拐されたり、拉致されたりと事態は深刻なのだが、それを感じさせない明るさがある。会話の中で自然に生まれるリズミカルな掛け合い、そして超ポジティブシンキングな登場人物たち。それらがすべて本作の特徴なのだろう。明るい雰囲気は読み進めるスピードを早める効果がある。しかし作品全体に重みというものを感じることができなかった。作者の作品には、軽妙なリズム感溢れる会話を繰り広げながらも、事件の深刻さで物語を重厚なものにしている作品もある。本作はあまりに軽すぎる印象を受けた。

■ストーリー

人間嘘発見器成瀬が遭遇した刃物男騒動、演説の達人響野は「幻の女」を探し、正確無比な“体内時計”の持ち主雪子は謎の招待券の真意を追う。そして天才スリの久遠は殴打される中年男に―史上最強の天才強盗4人組が巻き込まれたバラバラな事件。だが、華麗なる銀行襲撃の裏に突如浮上した「社長令嬢誘拐事件」と奇妙な連鎖を始め…。

■感想
このリズム感は癖になるかもしれない。独特な会話のキャッチボールと自由奔放なキャラクター達。これらすべてが本作の魅力かもしれない。いくつかの短いエピソードを伏線として最後には大きな出来事が待っている。細かなエピソードそれぞれは非常にまとまっており楽しく読むことができた。会話の節々に登場するきめ台詞のような物もとても印象に残っている。

主役である四人のギャングがそれぞれ独自のエピソードを従えて、最後に大きな事件に遭遇する。このパターンはまあよくあることだが本作はそれらがうまい具合に重なりあって不自然さがなくひとつの物語として繋がっている。ただし、気になったのは全体的な雰囲気が明るく陽気なものは本作の特徴だとしても、事件に対しての深刻さというものを一切感じることができなかった。本来ならばとても重要なことでも、本作の登場人物達にかかれば、それはまるでコンビニにフラリと買い物に行く程度にしか感じられない。

前作の陽気なギャングが地球を回すと比べると全体のトーンが一段階高くなっているような気がする。このテンションと勢いでどんどん進んで行くと、次回作はとんでもなくハイテンションな作品になりかねない。キャラクター的にはまだまだ活用できると思うがこのキャラクター達で深刻な話をやるのも面白いのかもしれな。軽快なリズムと会話。本作の魅力にさらに重厚な雰囲気が加わると鬼に金棒かもしれない。




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