輪違屋糸里 下 


2007.12.24 新撰組を支えた女たち 【輪違屋糸里 下】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
上巻を読んだ限りでは、それほど新撰組の色は強くなく、どちらかというと女の物語のような気がした。本作も女の物語には違いないが、そこには新撰組の隊士たちと密接に関わりあい、芹沢鴨暗殺にいたる過程を、克明に描いている。暗殺のその日、その時、女たちは何を考え、どのような思いで暗殺の手助けをしたのか。ほとんどが作者の想像なのだろうが、まるで史実に基づいたストーリーがあるようにしっかりと、そして、緊迫感あふれる作品に仕上がっている。悪役というイメージの強い芹沢が、本作ではしっかりとした侍として描かれているのも特徴なのだろう。

■ストーリー

島原の芸妓・糸里は土方歳三に密かに思いを寄せていた。 二人の仲を裂こうとする芹沢鴨には、近藤派の粛清の白刃が迫りつつあった…… 九月十八日の雨の夜、何が起こったのか。罪と闇が溶ける、男と女の匂い。暗い闇にただよう死の静けさ。浅田版新選組。

■感想
新撰組の芹沢鴨といえば、悪役のイメージが強い。対する近藤率いる隊士たちには正義のイメージがある。本作は芹沢鴨暗殺の舞台には女が深く関わっており、男と女の悲しいほどの愛を描いているように感じられた。今までの新撰組をテーマにした作品で、これほど女にスポットを当てた作品があっただろうか。もちろん、女だけでなく、新撰組の隊士たちの葛藤や、暗殺に踏み切る直前での緊張感はぴりぴりと感じることができた。

あの無敵と思われた沖田総司が緊張し、暗殺を恐れ、斉藤が気の抜けない時間を過ごす。これほどまで、芹沢鴨暗殺という仕事は一大事だったのだろう。隊士たちの緊迫感は、読んでいる者にも十分伝わってきた。そして、何が正しく、何が間違いだとかは関係なく、武士と農民という身分の違いすらも超えた、
尋常ではない思いがそこにはあったのだろう。

新撰組の影にはこんな女たちが存在したのか。史実には語られてはいないが、作者独自の解釈と、壮大な想像力で物語を形作っている。大成した男の影には、それを支える女が存在する。本作の、尊皇攘夷に熱い男たちも例外ではない。男が女を活かし、女が男を力強くする。

新撰組という、ある意味よく知られたものをテーマとし、さらに今までにない展開を模索する。新撰組を裏で支えた女たちという、誰もが想像しえない部分を、作者が勇気をもって取り組んだだけに、本作はその心意気を十分に感じることができる作品となっている。

新撰組の作品としては、まったく新しいパターンだろう。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp