2007.1.28 しっとりとした柔らかさ 【うつせみ】
評価:3
■ヒトコト感想
主人公がまったくしゃべらない、これが本作の第一の特徴。そして主人公と行動を共にする人妻も極端に言葉が少ない。二人が登場するシーンでは静けさの中に緊張感とも違う、しっとりとした柔らかな雰囲気が漂っている。おそらく頭もよく何でもできる主人公なのだろう。そんな人物が空き家に入り生活する。多少の暴力描写があるが、それすらもひっそりと静かな空気感が漂っている。全体に靄がかかったようにゆっくりと流れる時間。極端に会話が少ないだけにこの雰囲気を存分に感じることができる。
■ストーリー
主人公の青年テソクは、留守宅に勝手に侵入し、家主が戻るまで生活するという日常。あるとき、留守だと思って入った家に、人妻のソナを見つけるテソク。夫によって家に閉じ込められ、抜け殻のような生活を送るソナ。ソナの悲惨な状況を知ったテソクは、彼女の心を癒そうとソナを家から連れ出す。夫との関係に悩んでいたソナは、テソクとともに留守宅を移動する生活を始めるのだが・・・。
■感想
この結末に行き着くとは思わなかった。前半の空き家に入り込み、何を盗るでもなくただそこに無言で生活する。時には部屋を片付けたり、観葉植物に水をやったり。一言も話さない主人公のやさしさや几帳面さをうかがい知ることができる場面だ。この主人公からは人間的などろどろとした部分を感じることができず、どこかディスプレイされているマネキンを見ているような気分になった。
ひたすらアイアンでボールを打つ姿はストレスからの開放だろうか、それとも何かを暗示しているのだろうか。客観的に見るとその行為自体に恐怖を感じてしまう。ただ同じことをひたすら続ける姿は尋常ではない精神を垣間見ることができるからだろうか。人妻との逃避行での異常さを感じさせない主人公の雰囲気。これもマネキンのような表情がそう感じさせている。
後半は今までの流れからこうなるとは思わなかった。この部分をもう少し広げても、また別の作品ができそうな気がする。たとえるなら乙一のミステリーに登場しそうなほどのアイデアだと思う。人に気づかれずに相手の家に入り込み、生活する。家主が帰ってきても、家主に気づかれずに生活する。ヤドカリのように他人の家に寄生する。その最後に行き着く先は一緒に逃げた人妻の家だった。なんだかこの後の奇妙な三人での生活姿も見てみたいような気がした。
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