暗いところで待ち合わせ 乙一


2006.7.13 弱視と殺人者の奇妙な同棲生活 【暗いところで待ち合わせ】

                     
■ヒトコト感想
視力をなくした一人暮らしの女の子の部屋に住み着いた殺人犯。こんなテーマを乙一が書けばそうとう心和む作品が出来上がるのだろうとかなり期待していた。実際期待通りの作品だった。目が見えないミチルと逃げ込んだアキヒロ。かすかな気配を感じながらそこには誰もいないような振る舞いをするミチルと日常のちょっとした危険からミチルを救うアキヒロ。お互い相手を空気のような存在だと認識しながらどこか気にして生活をする。心温まる場面が多数登場するのだが、期待が大きかったせいかもっと衝撃的な出来事や、もっと心が和むようなエピソードが登場するかと思っていた。期待が大きかっただけに評価のハードルも高くなってしまった。

■ストーリー

視力をなくし、独り静かに暮らすミチル。職場の人間関係に悩むアキヒロ。駅のホームで起きた殺人事件が、寂しい二人を引き合わせた。犯人として追われるアキヒロは、ミチルの家へ逃げ込み、居間の隅にうずくまる。他人の気配に怯えるミチルは、身を守るため、知らない振りをしようと決める。奇妙な同棲生活が始まった―。

■感想
ミチルとアキヒロの関係を最初は心に傷を持っている者同士が慰めあっているだけかと思っていた。ミチルの視力が弱ってから内気になる気持ちもよくわかる。アキヒロの他人と関わりたくないという思いも分かる。しかし表面的にはそうであっても心の中では誰かを求めている。そして自分の波長に合う人に出会うことができてそれに気がつく。目の見えないミチルをいつの間にか見守るような立場になったアキヒロとアキヒロが殺人犯だと気づきながらアキヒロをかばうような気持ちが生まれてきたミチル。二人の静かでゆっくりとした生活には心和むものがある。

メインになるのは二人がお互いの存在と思いに気づくか気づかないかの瀬戸際、そして気づいたあとの生活なのだろう。その部分はドキドキするやら心が穏やかになるような場面なのだが、欲を言えばもっと過激な出来事が起きたり、二人の間に心情的なやりとりがはっきりと分かる部分もあってよかったのではないかと思った。少し期待していたよりも淡白に終わってしまったのでその後の展開で悲しいとか寂しいという気持ちにまで発展することがなかった。

途中で登場するミチルの友人はただのにぎやかしだとばかり思っていたが実は非常に重要な人物だったり、ストレートな一本調子の物語かと思っていたが、後半から突如怒涛の展開となったり、一筋縄ではいかなかった。ジャンルが何かと問われると非常に答えにくいのだが心温まる物語であることには変わりない。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp