失はれる物語 乙一


2006.9.4 この作品の存在意義は? 【失はれる物語】

                     
■ヒトコト感想
本書の評価の対象としては「マリアの指」と他ニ作になる。すでに出版されているものからの再録であり、それをすでに読んでいる人にとってはあまり読む意味がない作品かもしれない。とても短い短編二作はまあこんなものだと思うが、「マリアの指」はいつもの乙一風味を期待するとちょっと裏切られるかもしれない。多少ホラーな描写があるのだが、せつなさや悲しさを感じることもなければ激しい恐怖を感じることもない。他の収録作品を未読の人には良いかもしれないが、短編二作品を読むためであればお勧めできない。

■ストーリー

目覚めると、私は闇の中にいた。交通事故により全身不随のうえ音も視覚も、五感の全てを奪われていたのだ。残ったのは右腕の皮膚感覚のみ。ピアニストの妻はその腕を鍵盤に見立て、日日の想いを演奏で伝えることを思いつく。それは、永劫の囚人となった私の唯一の救いとなるが…。表題作のほか、「Calling You」「傷」など傑作短篇5作とリリカルな怪作「ボクの賢いパンツくん」、書き下ろし最新作「ウソカノ」の2作を初収録。

■感想
すでに文庫として発表されている作品が再録されている形なのだが、実は大きな違いがある。それは何かというと本作にはまったく挿絵がないということだ。スニーカー文庫で発表された作品には、物語の雰囲気にマッチしたなんとも切なくなるような挿絵が描かれている。挿絵のイメージで読むため、かなり作品にも大きな影響を与えていると思うが、これがあるのとないのではかなり印象も違うだろう。現に僕が最初に読んだときには、この挿絵を絶賛したのだから。

それを考えると、本作は同じ物語でありながら読んだ印象はずいぶん変わると思う。最初にスニーカー文庫を読んだほうが明らかに印象は良くなるだろう。そう考えると、挿絵を知らずに読んだ場合の評価がどのようなものになるのかちょっと気になるところだ。

僕の中での本作の評価の対象である「マリアの指」は、自殺をした女の子の指に絡む話なので多少おどろおどろしい雰囲気にはなっているがミステリーっぽくもあり、これだという印象はない。乙一独特のせつなくなるようなこともなく、淡々と進んでいる印象だ。他の乙一作品と比べるとあまりに平凡すぎるという印象しか残らない。本作に収録されている他作品をすでに読んでいる僕としては「マリアの指」が評価対象になってしまう。そうなると自然と評価は下がってしまう。

おまけ程度の超短編もある。それも特別心に残る作品ではなかった。



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