2007.6.11 ほんわかした暖かさ 【月のしずく】
評価:3
■ヒトコト感想
心温まるしんみりした癒しのドラマといえば作者の姫椿を思い出す。浅田次郎作品の最初の出会いである姫椿はそのときの精神状態にもよるのだろうが、かなり心に響いた。本作もライン的には同じなのだろうが、ただ姫椿ほどは感動できなかった。浅田作品に慣れてきたのだろうか、それとも心が感動に対して鈍くなっているのだろうか。物語的には十分に感動できるはずなのだが、そこまで心に響くことはなかった。全七編が七編とも物語りに入り込み感情移入することはできるが、そのままサラリと流れ出てしまう。ずっしりと心に残るような重さがないような気がした。
■ストーリー
三十年近くコンビナートの荷役をし、酒を飲むだけが楽しみ。そんな男のもとに、十五夜の晩、偶然、転がり込んだ美しい女―出会うはずのない二人が出会ったとき、今にも壊れそうに軋みながらも、癒しのドラマが始まる。表題作ほか、子供のころ、男と逃げた母親との再会を描く「ピエタ」など全七篇の短篇集。
■感想
浅田作品にはコメディ以外はハズレることがないと思っていた。本作も心温まるしんみりとした作品であることは間違いない、しかし何かが足りないように感じた。忘れかけた人の優しさや人間本来の暖かさ。現実ではなかなか感じることができない経験を作品を通して感じとることができるのだが、ドラマを見ているように読み終わるとさらりと自分の心の中から抜け落ちるような気がした。後々思い出しながら余韻を楽しむということができなかった。
表題作である「月のしずく」はみすぼらしい男の姿を想像し、男に心揺らいでいく美しい女もイメージできる。今で言うツンデレのようなこの美しい女がどんなことをきっかけとして男に心引かれていくのか。中盤までは心温まるハッピーエンドの終わりをイメージしていた、しかし意外に山あり谷ありで一筋縄ではいかない雰囲気もよかった。ある意味男ならだれでもあこがれる王道パターンなのかもしれないが、それをそのまま作品として描いてしまうのはすごいと思った。
別の意味で複雑な思いがしたのは「ピエタ」だ。男と逃げた母親に対する娘の思い。一筋縄ではいかない複雑な心境が十分に表現されている。そして、母親に対しての理不尽な復讐ともいうべき行動。ただ、その行動に利用された婚約者でさえすばらしい人間性から物語が暖かい物になっている。なんだか出てくる人々すべてが暖かく、思いやりに溢れているように思えた。
嫌なことがあり、心に隙間風が吹きつける人の心を暖めるのに最適な作品だろう。
おしらせ
感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp