姫椿 


2007.3.21 心の奥底からじんわりと 【姫椿】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
心温まり、そして何か力を与えてくれる短編。特に前半部分に登場する短編は読むときの心理状態にもよるのだが、かなり感動した。辛いことがあったり、嫌なことがあった日に本作を読むと、心の奥底がストーブで暖められたようにジンワリとしてくる。特に「シエ」は行き遅れの独身OLの嘆きの中に、ふと現れる不思議な動物。この動物とのふれあいと何が幸せで何が不幸なのか、そして近くにある幸せにはなかなか気づかないという感動作。そのほかにも感動する作品はある。涙を流すような感動ではなく、心の奥底から暖めてくれ、時には明日の活力になるような作品だ。

■ストーリー

飼い猫が死んでしまったOL、経営に行き詰まり、死に場所を探す社長、三十年前に別れた恋人への絶ち難い思いを心に秘めた男、妻に先立たれ、思い出の競馬場に通う大学助教授…。凍てついた心を抱えながら日々を暮す人々に、冬の日溜りにも似た微かなぬくもりが、舞い降りる。魂を揺さぶる全八篇の短篇集。

■感想
読むときの心理状態によっておそらく受け取り方も変わるだろう。悩みがあったり、沈んでいるときに本作を読むと元気づけられるではないが、どこか心の中が軽くなり明日への活力がわいてくるような気がする。「シエ」ではいったい何が本当の幸せで、幸せの概念や本当の幸せに気づかないことがままある。そして、なぞのシエという動物との交流。なんでもないはずなのに、最後の場面では感動してしまった。

「姫椿」は八方塞がりの状態で死に場所を探す社長が、ある場所をきっかけとして自分の過去を思い出す。人はどれだけ行き詰まり、目の前に大きな壁が立ちはだかっても最終的に死という決断を迫るのはとても安易な方法だと思っている。しかしそれを選択せざるを得ない状況に陥った人間がどのように復活していくのか。誰にでもある過去の思い出から、今の自分を考え直し、何もかも一からやり直す気持ちになる。人間生きていればどうにかなる。そして何もすべてに悲観的になる必要は無い。かすかに過去を思い出したりもしながら感動に心が打ち震えた。

後半の作品になると、多少前半に比べるとその力は弱まった気がしたが、それでも十分に元気を与える力を持っている。明らかにお涙頂戴ものというわけではなく、一つの物語の奥底に通じる人間の優しさや愛情。それらを直接的に表現してはいないが、作品を読んでいく中で節々で感じ取ることができる。必要以上に大げさでもなく、かといって抑えすぎてもいない。適度な主張がとても心地よい。

落ち込んだ時に読めば、元気づけられるだろう。



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